2026.9

No.337

名建築

街・公園につながる世界標準アリーナ

TOYOTA ARENA TOKYO

TOYOTA ARENA TOKYO

北西からの鳥瞰。手前の都の公園「センタープロムナード」からアプローチし、左側の三角形部分がサブアリーナ。大階段を2層分上り3階がメインエントランス前の「GATE PLAZA」 (写真:川澄・小林研二写真事務所)

鹿島建設株式会社

建築設計本部 建築設計統括グループ チーフアーキテクト

森本 栄貴

臨海副都心に現れた世界標準アリーナ

2025年10月、男子プロバスケットボールリーグ B.LEAGUE PREMIER所属「アルバルク東京」のホームアリーナであり、多機能型施設となるTOYOTA ARENA TOKYOが東京・青海にオープンしました。2022年春に行われた設計施工コンペにより私たちが設計を担当することになりました。


私たちは設計をする際に、以下の3つのコンセプトを掲げました。
 1. あらゆるスポーツの聖地
 2. 街や公園につながるようなコネクティッドアリーナ
 3. テクノロジーと環境が融合した人に優しいデザイン


「あらゆるスポーツの聖地」については、日本でNBAの迫力を味わえるような世界標準アリーナを目指し、全てのスポーツに関わる人にとって憧れの場所にしたいと考えました。そこで設計開始時にアメリカの最先端のNBAアリーナ施設を事業者といくつも視察し建築計画へ反映しました。


近年のアリーナはコンサートなども行われるため、観客席をU字型に配置したものが多くみられますが、「トヨタアリーナ東京」では、観客席を360度配置して、全方位から試合の臨場感を味わえるようにしました。それが、特徴的な楕円形の外観にもつながっています。


また、NBAのアリーナに倣い、今までの日本のアリーナではなかった、VIPスイート・ラウンジなどのホスピタリティエリアを充実させるなど、多種類の観客席により、アリーナの収益貢献が期待できると同時に、多様なニーズに応えられる観戦環境をつくりました。

まちにひらかれた「アリーナパーク」

最寄駅は、ゆりかもめ「青海駅」、またはりんかい線の「東京テレポート駅」。どちらの駅を出てもすぐに「トヨタアリーナ東京」の姿が目に飛び込んできます。地域の新たなランドマークとなるよう、灯台(ビーコン)をイメージしたアリーナ頂部庇が大らかなスカイラインを描くことを考えました。


センタープロムナードから敷地に入ると、まず左手の三角形部分にサブアリーナがあり、大階段を上がって、3階メインエントランス前の「GATE PLAZA」へ。さらに4階にあがると「JOINT PARK」「SPORTS PARK」の2つのパークがあり、イベントがある日はキッチンカーでの販売もあり、賑やかな空間になります。そして西側のメインゲートからアリーナに入ると、アリーナ空間を一望できるオープンコンコースとなっています。


3、4階のコンコースには、催し物、展示などができる場所や売店・ワゴンスペースを東西南北につくり、大きな窓から景色が見えるようにしています。この場所からは、公園や海、ゆりかもめの路線など、方向によって違った景色が楽しめます。


3つ目のコンセプト「テクノロジーと環境が融合した人に優しいデザイン」については、トヨタグループとして環境に配慮し、全ての人が使いやすいアリーナを求められました。それに応えるために太陽光パネルの設置をはじめとする省エネルギーへの取り組みなど、脱炭素とSDGS達成に貢献し、アリーナでは国内初のLEED gold®を取得しています。また、わかりやすい空間構成・インテリアやサインなどインクルーシブなデザイン、つまりすべての人にやさしいアリーナを目指しています。

メインアリーナ内部。試合観戦時は1万人を収容。バスケットコートを360度ぐるりと囲む観客席。中央には四方から映像が見られる「センターハングビジョン」を設置(写真:川澄・小林研二写真事務所)

メインアリーナ内部。試合観戦時は1万人を収容。バスケットコートを360度ぐるりと囲む観客席。中央には四方から映像が見られる「センターハングビジョン」を設置
(写真:川澄・小林研二写真事務所)

大階段からメインアリーナを眺める

大階段からメインアリーナを眺める
(写真:川澄・小林研二写真事務所)

西側ファサード

西側ファサード (写真:川澄・小林研二写真事務所)

頂部庇断面詳細図 1/120

頂部庇断面詳細図 1/120

吸音・遮音・断熱全てを満たす屋根

アリーナの用途として、8,000〜10,000人規模のコンサートやMICE(カンファレンス)など多目的に使え、さまざまなイベントに柔軟に対応できるようにしたいという要望がありました。


コンサート開催時には、外に音が漏れないように遮音に配慮し、かつ残響時間がなるべく短くなるように吸音する必要があります。ですから屋根には吸音・遮音、さらに高い断熱性能が求められました。スポーツ施設としては拍手や応援が少し響く方がよく、音響のあるコンサート施設としては遮音、吸音をしっかりしたい。音を全部吸ってしまわないように、ある程度スピーカーで調整しやすくスポーツのにぎわいも少し残る程度となるよう、残響時間3秒以下を目指しました。


この場所が海に近いこともあり、周辺への風の影響をなるべく小さくするため、軒の高さをできるだけ下げることが都市計画で求められました。また、アリーナ空間には柱を立てられないため、楕円の短手方向(東西方向)にスパン84mのメイントラスを架けました。トラスの中央部分の梁せいは約7m必要で、端部はコンパクトに約4.5mにしています。したがって、屋根の形状は、頂部が少し高くなり、軒の高さは水平に通るように設計し、卵型のような大きな自然曲率をもつ3D曲線になっています。


屋根はコンクリートを打つと重くなるので金属で葺きたい。三晃金属工業に相談して、いくつか提案していただいた中で、ステンレス防水の下に2重折版を置いて断熱層を設けて、さらにその下にグラスウールボードを貼った複合体を選びました。これなら吸音、遮音、断熱、耐候性全てをクリアできます。


また、このアリーナが立地している江東区では、建物規模に応じた緑化面積が条例で義務づけられており、アリーナ屋上の緑化面積は5,500㎡で国内のアリーナ施設の中で最大級です。今回、トラス梁の上からの屋根工事が三晃金属工業1社で全て完結しています。ソーラーシステムを固定する下地も三晃金属工業が施工したので、屋根と一体感のある仕上がりとなりました。屋上緑化のユニットグリーンシステムはロックウールの上に芝生を植えます。土を使わないので汚れも少なく、あまり屋根荷重がかからずに、風で吹き飛ぶ心配もなかったことが採用の理由でもあります。


この施設には、携わったさまざまな人たちの思いが随所にあらわれています。多くの方に実際にこの場所で、試合観戦やコンサートライブを体感していただけると嬉しいですね。


そして、この場所が街や公園と一体化して成長していってくれることを願っています。

上からの眺め

上からの眺め。写真上が北。屋根は南北120m、東西100m。屋上緑化面積は国内のアリーナ施設の中で最大級。ユニットグリーンシステムの外側はソーラシステム。楕円の円周は360mで、谷樋が縁取る (写真:川澄・小林研二写真事務所)

屋上から有明・お台場エリアを望む(写真:川澄・小林研二写真事務所)

屋上から有明・お台場エリアを望む (写真:川澄・小林研二写真事務所)

屋根の木口は屋根勝ちの唐草納め。外壁は凹凸のある押出成形セメント板で陰影をつけている(写真:川澄・小林研二写真事務所)

屋根の木口は屋根勝ちの唐草納め。外壁は凹凸のある押出成形セメント板で陰影をつけている (写真:川澄・小林研二写真事務所)

3階「GATE PLAZA」からメインエントランスを眺める。頂部の庇がライトアップされビーコンをイメージした外観を引き立てている

3階「GATE PLAZA」からメインエントランスを眺める。頂部の庇がライトアップされビーコンをイメージした外観を引き立てている (写真:川澄・小林研二写真事務所)

施工に携わって 三晃金属工業㈱ 東京支店

アリーナ建設において、総工事期間延べ23か月は、他に例を見ない短工期で、それに加え昨今の建設労務ひっ迫化対策として、総ベント工法を採用した屋根トラス鉄骨工事を南北2工区に分割、北半分を先行してベント開放(ジャッキダウン)を行う元請計画に準じ、いかにして労務平準化を行い、厳しい屋根施工期間を遵守するか検討を重ねました。


屋根の施工期間は、2024年6月から2025年1月までの7か月。10,107㎡の大きな面積をどのように施工していくか、施工順序を綿密に考えました。


この「トヨタアリーナ東京」では、屋根に遮音・吸音・断熱、さらに耐候性を求められたので、SRAS®の上に丸馳折版Ⅱ型のダブルパック、その上にR-T工法、そして屋上緑化のユニットグリーンシステムとソーラーパネルが載ります。


北側の鉄骨ができ上がった段階で、北側のSRAS®からダブルパックまでを施工し、南側に移行していく工程を計画しました。1つの屋根の中で同時にいろいろな工程が進行し、南工区でダブルパック、北工区でR-T工法を同時に施工しました。


作業人数は1日平均11~ 15人、最大46人、 延べ2,566名に及びました。R-T工法も谷樋のエックスロン防水樋も当社のライセンスを持つ職方による施工です。


屋根の形状が、平面上は楕円形ですが、頂部から軒先に向かって勾配がある、卵のような3次元形状です。これを折版とSRAS®とR-Tという複層構成で施工するには、納まりや割付が複雑であり、当社の設計部門と協力しながら施工を進めていきました。


敷地が海に面し強風が吹くところです。南北工区境を、1か月程度仮葺きの状態で維持する必要があり、その際、台風・雨養生に特に留意しました。また、至近距離に首都高やゆりかもめが通っているため、細かい資材が決して風で飛ばないような対策が必要でした。


この折板屋根の「防風浸水対策」は特許登録を終え、当社担当者も発明者として登録されています*1


屋上緑化については、芝生の育成を考慮して、施工時期を初期段階から提案。冬季は芝が休眠状態のため、最初の2か月はユニットトレーを取り付け、3、4月で芝生を張りました。


スポーツの熱狂や音楽の感動が響き渡る最高の空間づくりを屋根から支え、このアリーナを盛り上げる一翼を担えたことを、非常に誇りに思っています。

*1:特許第7715958号 「折板屋根の端部処理構造」

工区を南北に分け、写真左側の北工区からダブルパックを施工。南工区は鉄骨にタイトフレームを設置中

工区を南北に分け、写真左側の北工区からダブルパックを施工。南工区は鉄骨にタイトフレームを設置中

北工区は野地板を張り終わりR-T工法施工中。南工区はダブルパック施工後、一部野地板を張り始めている

北工区は野地板を張り終わりR-T工法施工中。南工区はダブルパック施工後、一部野地板を張り始めている

北工区はR-T工法が終わり、南工区はR-T工法の下地ができたところ

北工区はR-T工法が終わり、南工区はR-T工法の下地ができたところ

屋根詳細図

屋根詳細図

ユニットグリーンシステムの施工がほぼ終了。右の茶色の部分は展望デッキ

ユニットグリーンシステムの施工がほぼ終了。右の茶色の部分は展望デッキ

建築概要

所在地 東京都江東区青海
施主 トヨタ不動産株式会社
敷地面積 約26,446㎡
建築面積 約16,749㎡
延床面積 約38,039㎡
構造 SRC造 一部S造・RC造
階数 地上6階、地下1階
屋根仕様 音断ルーフTYPEⅡ 10,107㎡
〈R-T工法〉
フェライト系ステンレス鋼板(SUS445J2)t=0.4mm
〈丸馳折版Ⅱ型(ダブルパック)〉
上弦材 ガルバリウム鋼板 t=0.8mm
下弦材 ガルバリウム鋼板 t=0.6mm
SRAS〉t=50mm
ユニットグリーンシステム 5,501㎡
立馳SX-40フッ素高耐食性ガルバリウム鋼板 t=0.5mm 508㎡
エックスロン防水樋 エックスロン鋼板 t=0.6mm 351m
壁仕様 サイディングS/フッ素高耐食性ガルバリウム鋼板 t=0.5mm 91㎡
設計 KAJIMA DESIGN
施工 鹿島建設株式会社
工期 2023年7月〜2025年6月(延べ23か月)