建築のかたちを考える
(髙橋一平建築事務所)
現在、多くの人でにぎわう「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」(以下、どうぶつとみんなのいえ)は、2026年にJIA日本建築大賞と日本建築学会賞(作品)を受賞して、さらに注目されています。設計された髙橋さんに、「東京藝術大学彫刻棟増築」(以下、藝大彫刻棟増築)と「七ヶ浜町立遠山保育所」を含めて建築に対しての考えをうかがいました。
現在、多くの人でにぎわう「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」(以下、どうぶつとみんなのいえ)は、2026年にJIA日本建築大賞と日本建築学会賞(作品)を受賞して、さらに注目されています。設計された髙橋さんに、「東京藝術大学彫刻棟増築」(以下、藝大彫刻棟増築)と「七ヶ浜町立遠山保育所」を含めて建築に対しての考えをうかがいました。
——髙橋さんは西沢立衛さんの事務所で7年勤務されました。入所の動機や印象に残っていることを教えてください。
入所を希望した理由は、まずは西沢さんの作品や言説への興味が主ですが、一番大変そうな建築設計事務所だと聞いていたからです。建築設計の仕事で生きていこうと考えていたので、道を究めようとするなら厳しい環境で学ぶのが良いと思っていました。印象的なことはたくさんあるのですが、とにかく必死だったので、今は全部忘れているくらいです。
——では最近の作品について、使われなくなった公共施設に動物を入れて新しい施設につくり変えた「どうぶつとみんなのいえ」は、どのようなことを考えて実現したのでしょう。
1992年に建てられた「水の科学館」は近年利用者が減少しましたが、2020年に旧施設と湖畔エリアに関する再生プロポーザルが行われました。このような事象は日本国内が抱える問題として大きく、将来にもたくさんの類似のケースが生じるだろうと感じ、しかも前例がないので、チャレンジしたいと思いました。
最初はヤギやウサギなどの小動物とふれあう施設を考えていましたが、それでは普通に思えました。「キリンとかを入れたらインパクトがあるかも」と話したところ、事業者が調べてキリンを呼ぶことができると分かり、プロポーザルで提案して私たちが選ばれ実現しました。旧施設はすぐ横にある霞ケ浦との関わりを持たない建築だったので、「どうぶつとみんなのいえ」は霞ケ浦と結びつけること、そのために既存棟に巻き付くような歩廊を新設してイメージを変え、新しい環境づくりをすることを提案しました。
初めのうちはキリンに触れることができると思っていましたが、調べてみると厳しい制限もありました。実際に国内の動物園を訪れキリンを見てみると、触りたいという人間の関心が妨げられるというより、神々しい存在なので触ってはいけないという感じがしました。動物にべたべた触れる動物園も多いですが、それではただの消費行為です。訪れた人がそういう感覚を抱き、自然の尊さを感じられるように、キリンとの距離を置きながらも人が間近でふれあうにはどうしたら良いかを考えていきました。
旧施設のアーチ屋根の下を「キリンの家」「キリンの居間」とし、外壁を解体してキリンが中庭に出入りできるようにしました。旧施設のメインエントランスであった大階段の下部は壁で閉じていましたが、壊して階段の下に動物が入れるように、さらに階段に穴をあけて光や雨風が入るようにして解体していきました。人工物と自然が交ざり合ったそのような場所で、人が動物とふれあいます。そういうシチュエーションの中に人を入れるということは、今までなかったでしょう。
——「どうぶつとみんなのいえ」も「藝大彫刻棟増築」も、既存建物に新築部分がほとんど接していません。どのような意図がありますか。
他人がつくったものと自分がつくったものが混ざることがよくないと思っています。上書き行為をせずに両者に関係性をもたらす方が双方の尊厳を保てるのではないかと。「どうぶつとみんなのいえ」の場合、新築や解体や改修部分がそれぞれ分かるようにしながらも、経験するとそれらが滑らかに繋がるようにしました。それは「藝大彫刻棟増築」の後から思い始めたことです。
東京藝術大学彫刻棟増築(2023)
写真提供:髙橋一平建築事務所
霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ(2025)
写真提供:髙橋一平建築事務所
霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ(2025)
写真提供:髙橋一平建築事務所
——「藝大彫刻棟増築」について、既存棟との関係から教えてください。
藝大彫刻棟は、既存棟が建築遺産としても藝大にとっても重要な建物です。増築は既存棟が引き立つようにするという考えでした。主に塀、屋根および柱で構成しています。
彫刻棟の北側に位置し、暗いので明るくする。粉塵が隣地へ舞わないよう塀を建てるが、できるだけ薄くしてスペースを広く維持したい。壁が厚いと開放的な感じもしなくなります。構造家の佐藤淳さんに構造計算していただき、75×45mmのコの字の鋼材を4.5mmの鉄板で挟むことになりました。でも4.5mmという薄い鉄板は製作の段階で歪む可能性があります。とはいえ厚くしても無駄なので、ならば綺麗に歪んだらいいと考えました。工場でパネルをつくり、各パネルの溶接順序を規則的にするようにお願いしたので、ある程度整った歪みになって、繰り返しの模様となっています。
——実際に見に行きましたが、その壁は布が風になびいているように見えました。復興事業として建てられた宮城県の「七ヶ浜町立遠山保育所」もステンレスの外壁が印象的です。
まず、建築の高さをなるべく低くして、園庭となる中庭は囲まれた感じがせずに周辺環境と一つになるように考えました。次に、復興のモニュメントとして永く残る建築とは何かを考えたとき、外観が印象的であることも必要だと思いました。それから耐久性もそうです。海の近くにあるので、錆びにくいステンレスシートを採用しました。建築の背が低いので、ぎらぎら輝いていても周辺環境と合うだろうと。
ここは海に近いので、みんな海に出たときの解放感を知っているでしょう。海や空を見たときのような感覚が、保育園に入ったときにおきるといいなと考えました。中庭を広くとると空が大きく見えるし、外観もステンレスシートが照り輝いていると、自分たちの家のまわりにある景色とは違う解放感が出ると思いました。保育園を利用される方というのは、日常生活がきっと慌ただしいはずです。日常の暮らしで、子どもが過ごすだけではなく、子どもを預ける親にとってもこの解放感を感じ、一瞬だけでも生き抜きをしてほしかったんです。
七ヶ浜町立遠山保育所(2013)
写真提供:髙橋一平建築事務所
——金属の壁や屋根を検討するにあたり、色や素材についてこだわりがあれば教えてください。
たとえば白を採用すると、白にしたいという意思が伝わってしまう。色や素材だけが主張するのではなく、建築全体の存在感を扱いたいので、色だけについては意思が強く伝わらないものはないかと、「笛吹みんなの広場」などではベージュを採用しています。「藝大彫刻棟増築」は屋外展示スペースとして活用する想定もあるため白ですが、結果として光を強く反射しインパクトが出ました。
また、最近設計した建物には、壁を主体にするのではなく屋根を主体に考えて、大波板で屋根と壁を全面に葺いているものがあります。
外壁に金属板を採用するのは一般的ですが、笠木や役物が仕上面の上に被ると、外壁や開口部周りがなかなか綺麗に仕上がらず、保守的に納めようとすると見た目も凡庸になり、しかもそのことが主張しはじめる。それがもどかしくて、いつもディテールに苦しみながら職人さんと相談し、楽しんで設計しています。
——貴重なお話を、ありがとうございました。
髙橋一平(たかはし・いっぺい)
1977年 東京都生まれ。 2000年 東北大学工学部建築学科卒業。 2002年 横浜国立大学大学院博士課程前期修了。 2002年 西沢立衛建築設計事務所入社(〜09)。 2010年 髙橋一平建築事務所設立。 2011年 横浜国立大学大学院助教(〜19)。 現在 横浜国立大学、東北大学非常勤講師。