名建築

県のシンボルとなり
人びとが気軽に交流できる施設

あなぶきアリーナ香川
(香川県立アリーナ)

あなぶきアリーナ香川

北側上空からの眺め。左の円がメインアリーナ、右の円がサブアリーナ。中央のメインエントランスが陸側と海側をつなぐ。一番右の長方形部分が武道施設。
一帯は「サンポート高松」という再開発地区。奥(南側)の高層タワーの後ろ側にJR高松駅がある

SANAA

池田 賢

陸海ともに絶好の立地にあるアリーナ

2025年2月、香川県立体育館「あなぶきアリーナ香川」がオープンしました。高松駅の目の前にあり、瀬戸内海に面する再開発地区「サンポート高松」の中に位置しています。

プロポーザルが行われたのは2018年。①国際大会や全国規模のスポーツ競技大会ができる、②県民の生涯スポーツの場となり地域の方々が利用できる、③交流施設となるようコンサートや国際会議ができる、これらが整備基本計画の大きな方針でした。

1988年の瀬戸大橋の開通以前は、連絡船が本州からの交通手段であり、現在のサンポート高松周辺は連絡船の着く埠頭でした。その一帯が埋め立てられて再開発が行われ、現在はJR高松駅、高松シンボルタワー、合同庁舎、高松港旅客ターミナルビルなどの大規模施設が立ち並んでいます。本州からの陸路が発達したとはいえ、瀬戸内海には岡山や小豆島をはじめ、各所からの船が往来し、高松港に集まってきます。その際に最初に目に飛び込んでくるのがこの「あなぶきアリーナ香川」になることから、県からは「香川県の玄関口としてシンボルとなるものにしたい」という要望もありました。

親しみやすさと本格的な機能を併せ持つ

この「あなぶきアリーナ香川」の敷地は、以前は瀬戸内海を見ながら散歩を楽しめる芝生の親水公園で、最初に敷地の見学をした時に、とても賑わっていたのが印象的でした。大型イベント施設の場合、イベントに訪れる人以外はなかなか施設の中に入りにくいものですが、既存の親水公園のように日常的に気軽に、誰でも親しみをもって訪れてもらえるような施設を目指したいと考えました。

建物は単純な2つのレベルでできています。来館者はゆるやかなスロープを上り、各アリーナの間に設けた半屋外のエントランス広場に向かいます。全体は、最大1万人を収容できるメインアリーナ、約1,000人収容のサブアリーナ、そして武道施設という3つの施設で構成されており、これらの競技面を同じフロアとすることで、メイン・サブ・武道施設の同時利用も可能としています。

また、アリーナ観客席の周囲には交流エリアというスペースを設けていて、ここはアリーナが使用されていない時も自由に利用できるスペースとして計画しています。一般的なアリーナ施設の場合、アリーナとロビーは壁で隔てられていますが、ここはアリーナと観客席、交流エリアを壁で仕切らない一体的な空間としており、アリーナの中の様子が交流エリアまで伝わってきたり、アリーナや観客席の中からも周辺の瀬戸内海の雰囲気を感じることができる構成としています。公園のように日常的に自由に回遊できるスペースであるだけでなく、コンサートなどのイベント時にもさまざまな利用ができるのではないかと考え、設計時に交流エリアとアリーナの使い方のバリエーションを提案しました。

また、メインアリーナは、スポーツと音楽の両方を行うことが可能な施設とする必要があり、音響面での難しさもありました。スポーツ利用では選手同士が声を掛け合ったり、観客席から応援の声が届いたりするように音を反響させたい。一方、機械音響が中心となるこの規模の音楽イベントでは、音楽が明瞭に聞こえるようにロングパスエコーを防ぐ必要がありました。そこで、奥の交流エリアまで音を飛ばし、観客席を衝立としてエコーを防ぐことで屋外空間のような室内音響をつくることを考えました。交流エリアというスペースを設け、壁のないワンルーム空間とすることで、地域の人のための交流空間をつくりながら、多様な使い方に対応できるアリーナを目指しました。

©SANAA瀬戸内海から船で近づくとこの建物が最初に見える。高さを極力抑え、周辺や背景の讃岐山脈にもなじむような外観。中央の高層建物は「高松シンボルタワー」

瀬戸内海から船で近づくとこの建物が最初に見える。高さを極力抑え、周辺や背景の讃岐山脈にもなじむような外観。中央の高層建物は「高松シンボルタワー」

©SANAA南側から緩やかなスロープを上り、メインエントランスに向かう。

南側から緩やかなスロープを上り、メインエントランスに向かう。
建物を縁取るような低く延びる軒が訪れる人を迎える

©SANAAメインエントランスは24 時間通行可能で海側の広場に抜けられる

メインエントランスは24時間通行可能で海側の広場に抜けられる

高さを抑え正面性をもたない外観

サンポート高松という周辺地域全体に対してひろがりを持った施設をイメージし、屋根は全体的につながった1つの大屋根にすることを考えました。人びとを迎え入れるために全体として低い屋根とすることや軒先を延ばすこと、また、シンボルタワーの6階にある国際会議場からの眺めも問われていましたので、アリーナ越しに海や島が見えることも意識しました。逆に海から見える姿として讃岐山脈の風景との調和も考えました。ドームの構造を単層とすることで高さを抑え、人が入りやすく周囲になじむ形、また、さまざまな方向からの見え方を考えて正面性を持たない形を考えました。

一体的に連続した屋根をつくる

この建物は屋根の面積が大きく、機能的にも大変重要なものになっています。最初は1つのつながった有機的な形状の屋根をつくるために小さなパネルを敷き並べることを検討していました。プロポーザル後、基本設計に入った序盤から県の担当者とともに工法や材料を比較検討して、最終的にステンレス防水屋根を選定しています。

一般的に半球型のドーム施設を金属屋根で葺く場合、屋根は紙風船のように放射状に葺きますが、そうすると各アリーナがそれぞれ分節して、各々が独立しているようなイメージとなるため、それよりも全体がつながって、外に対してひろがりをもったイメージとしたいと考えました。

設計時に3Dモデルや模型を制作して検討していく中で、弓形の帯のような屋根材を縦に葺いていくことができないかと相談して、実現可能だったのが三晃金属工業のR-T工法でした。

その際、3次元曲面でありながら屋根材の馳の線がまっすぐに見えるように、実際に割り付けられるのか、何度も検討し展開のデータをやりとりして、施工が可能かどうかの検証を相談していきました。

大変な工事でしたが、実際でき上がった姿はそれを感じさせないくらい当たり前のように美しくでき上がっています。難しい相談に対してさまざまな検証を行い、美しい屋根を実現していただいたことに大変感謝しております。
2月のオープン以来、大型イベントも行われ、多くの人に利用されて賑わいが生まれてきています。また4月から「瀬戸内芸術祭2025」が開幕しました。これから、「あなぶきアリーナ香川」が国内・海外から訪れる多くの人びとを迎え、サンポート全体に賑わいがひろがっていくことを期待しています。

©SANAA国際スポーツ競技、コンサート、国際会議などのイベントに使用できるメインアリーナ

国際スポーツ競技、コンサート、国際会議などのイベントに使用できるメインアリーナ

©SANAAサブアリーナ

サブアリーナ

©SANAA武道施設

武道施設

©SANAAメインアリーナ横に設けられた交流エリア。メインアリーナとの仕切りがなく一体的な利用も可能。海側の広場ともつながる

メインアリーナ横に設けられた交流エリア。メインアリーナとの仕切りがなく一体的な利用も可能。海側の広場ともつながる

施工に携わって
三晃金属工業㈱ 大阪支店(現:関西支店)

曲面屋根の施工ではステンレスシート防水・R-T工法が採用されることが多いのですが、「あなぶきアリーナ香川」のメインアリーナの屋根材は一番長いところで130mあり、これまでのR-T工法でも前例のない長さでした。

メインアリーナのドーム型屋根を東西に2分割し、中央部から施工を始めました。陸側(南側)に成型機を設置し、そこから屋根頂部を越えて北側(海側)端部に向かって屋根材を引き出します。最初は北側まで作業人員を均等に配置して施工しましたが、頂部から北側になると、海からの強風に見舞われ施工が難しく、作業人員を北側に増やして葺いていきました。長い1枚を施工するために作業員同士は無線を使用して意思疎通を図りました。施工当初は1日に数枚しか葺けなかったのが、工事が進むにつれて作業がスムーズになっていきました。

3次元曲面の屋根で馳を直線に見せるデザインのため、屋根材は1枚ずつ異なる長さと形状のものを平行に葺いていかなければなりません。当社の設計技術部門で平面展開図を作成し、その数値に基づき現場で1枚ずつ成型して割り付けていきました。1枚の屋根材の中でも周縁部はキャンバー値が大きく頂部は小さくなりますし、左右でも形状が変わり非対称のキャンバーが付きます。成型する際はさらに現場で手作業での微調整が必要でした。

端部に近づくほど傾斜がきつくなるため、施工中の安全管理にも細心の注意をはらいました。施工の順番は①メインアリーナ頂部から西側、②サブアリーナの頂部から東側、③同頂部から西側、④武道施設、⑤サブアリーナ・武道施設の接続部、⑥サブアリーナからメインエントランス、⑦メインエントランスです。 近くの高松シンボルタワーから「あなぶきアリーナ香川」の、ジョイントのない一体的な屋根と直線状に延びる馳を見下ろすことができます。新たな挑戦をやり遂げた達成感を感じることができました。

建設中の様子。大小の円はメインアリーナとサブアリーナ。メインアリーナに屋根材を葺き始めて間もない頃

建設中の様子。大小の円はメインアリーナとサブアリーナ。
メインアリーナに屋根材を葺き始めて間もない頃

1枚目の作業の様子。南側に置いた成型機から屋根材を引き出して葺いていく

1枚目の作業の様子。南側に置いた成型機から屋根材を引き出して葺いていく

深谷製作所で屋根材のモックアップを作成

深谷製作所で屋根材のモックアップを作成

15人以上を配置して不整形の屋根材を葺く

15人以上を配置して不整形の屋根材を葺く

南側の成型機から出てくる屋根材を葺く様子を上から見る

南側の成型機から出てくる屋根材を葺く様子を上から見る

端部に近くなると勾配がきつくなり、安全管理に細心の注意をはらう

端部に近くなると勾配がきつくなり、安全管理に細心 の注意をはらう

北側(海側)に成型機を置いてメインアリーナの西側に屋根材を設置していく

北側(海側)に成型機を置いてメインアリーナの西側に屋根材を設置していく

南側からメインアリーナとサブアリーナの間のメインエントランス部を見る

南側からメインアリーナとサブアリーナの間のメインエントランス部を見る

建築概要

所在地 香川県高松市サンポート6-11
発注者 香川県
敷地面積 31,336.79㎡
建築面積 18,976.44㎡
延床面積 28,975.10㎡
構造規模 S造、RC造一部SRC造/地下1階、地上2階
屋根仕様 R-T工法/フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板(SUS445J2)
【メインアリーナ】13,805㎡【サブアリーナ】5,660㎡
【武道施設】1,609㎡
設計·監理 SANAA
施工 大林・合田・菅特定建設工事共同企業体
竣工 2024年11月