この「あなぶきアリーナ香川」の敷地は、以前は瀬戸内海を見ながら散歩を楽しめる芝生の親水公園で、最初に敷地の見学をした時に、とても賑わっていたのが印象的でした。大型イベント施設の場合、イベントに訪れる人以外はなかなか施設の中に入りにくいものですが、既存の親水公園のように日常的に気軽に、誰でも親しみをもって訪れてもらえるような施設を目指したいと考えました。
建物は単純な2つのレベルでできています。来館者はゆるやかなスロープを上り、各アリーナの間に設けた半屋外のエントランス広場に向かいます。全体は、最大1万人を収容できるメインアリーナ、約1,000人収容のサブアリーナ、そして武道施設という3つの施設で構成されており、これらの競技面を同じフロアとすることで、メイン・サブ・武道施設の同時利用も可能としています。
また、アリーナ観客席の周囲には交流エリアというスペースを設けていて、ここはアリーナが使用されていない時も自由に利用できるスペースとして計画しています。一般的なアリーナ施設の場合、アリーナとロビーは壁で隔てられていますが、ここはアリーナと観客席、交流エリアを壁で仕切らない一体的な空間としており、アリーナの中の様子が交流エリアまで伝わってきたり、アリーナや観客席の中からも周辺の瀬戸内海の雰囲気を感じることができる構成としています。公園のように日常的に自由に回遊できるスペースであるだけでなく、コンサートなどのイベント時にもさまざまな利用ができるのではないかと考え、設計時に交流エリアとアリーナの使い方のバリエーションを提案しました。
また、メインアリーナは、スポーツと音楽の両方を行うことが可能な施設とする必要があり、音響面での難しさもありました。スポーツ利用では選手同士が声を掛け合ったり、観客席から応援の声が届いたりするように音を反響させたい。一方、機械音響が中心となるこの規模の音楽イベントでは、音楽が明瞭に聞こえるようにロングパスエコーを防ぐ必要がありました。そこで、奥の交流エリアまで音を飛ばし、観客席を衝立としてエコーを防ぐことで屋外空間のような室内音響をつくることを考えました。交流エリアというスペースを設け、壁のないワンルーム空間とすることで、地域の人のための交流空間をつくりながら、多様な使い方に対応できるアリーナを目指しました。