サッカーフィールドに天然芝を使用することから、スタジアムは全天候型ではなく、フィールド部分には屋根はありません。サッカーの試合中、前半・後半で日差しの当たり方が公平になるよう、南北にゴールを設けなければならず、それにより、自ずと敷地内での配置が決まります。
スタジアムは、地上7階建てで観客席2万8520席を有しています。基町高層アパートに面した北側は、日影規制がかかり屋根の高さを抑えなければなりません。したがって北側に席数の少ないアウェイ席を設け、南側はホーム席として席数を増やし天井高も高い非対称形の東西(長手方向)断面形状が決まりました。一般にスタジアムの屋根は対称形のものが多い中、非対称であることも、このスタジアムの大きな特徴です。
さらに特徴的なのは、大空間を実現しているスタジアムの翼にあたる、東西長手方向に架かる135mの屋根です。張弦梁という弓を引いたようなアーチ形状の梁で屋根を支えています。鉄骨トラスの上弦架構とケーブルの下弦材から成り、途中2カ所で3本の鋼管によって上下の弦をつないでいます。そして下弦材を両側から1,100トンの力で引っ張ってバランスを保っています。これだけの大規模な張弦を張る瞬間には緊張感がありましたが、この張弦梁構造によって観客席に柱をなくし、軽やかな鳥の羽のような美しい構造体を表現することができました。
サッカースタジアムではサッカーを観戦する人々が熱狂し一体感を得られるように、劇場のようなクローズドな空間であることが求められます。一方でサッカーを観戦しない人たちにも足を運んでもらえるように、またスタジアム内の賑わいを街に発信できるように、クローズドでありながらもオープンにする必要がありました。それをこの「街なかスタジアム」というコンセプトの中でどう表現するのかを考えて、街の中心に向けて人々を迎え入れるような大きな開口部を南西南東側に設けることにしました。そのようにオープンにすることは見た目の軽さにもつながり、外へ向けた機能的な発信性と、デザイン的な翼のかたちを実現することにつながりました。