名建築

地域とともに歩み続ける建築

鹿部町総合体育館

鹿部町総合体育館

駒ヶ岳を背景に上空から。1994年に完成した鹿部町の自然と未来を表現した体育館。2023年6月から2024年2 月にかけて改修工事が行われた

株式会社 二本柳慶一建築研究所

代表取締役

二本柳 慶一

約30年の時を経て

鹿部 ( しか べ ) 町は北海道の南端、 (  お ) ( しま ) 半島の東部、駒ヶ岳の山麓に位置する内浦湾(噴火湾)に面したまちです。道南有数の温泉地で、全国的にも珍しい ( かん ) ( けつ ) ( せん ) が有名です。鹿部町総合体育館は、私にとって特別な思い出のある建物です。新築として設計したのは1992年頃、私が独立して6〜7年目、30代半ば過ぎのころでした。住宅や商業施設の設計はしていましたが、大規模な公共建築は経験がなく、鹿部町の体育館設計コンペへの応募は大きな挑戦だったのです。当時、函館建築士会の青年部の部長や業界団体の役員を務めるなど、函館のまちづくりにも取り組んでいた中、スタッフとともに打ち合わせを何度も重ね、計画案を考えました。


設計は鹿部町のシンボルである駒ヶ岳からの軸線を意識しました。体育館の場所から、駒ヶ岳がきれいに見えるのです。この駒ヶ岳の雄大さや鹿部町の豊かな自然環境を建築に取り入れたいと考えました。エントランスは噴火湾の海を象徴する円形をイメージし、体育館部分の曲面屋根は、子どもたちが羽ばたくように育っていく姿、そして成長して、また鹿部町に戻ってきてほしいという願いを込めました。


それまでの自分は、中央への憧れも抱いていましたが、この体育館の設計を通して「建築が街やそこに住まう人々と共にあること」に勇気をもらいました。

耐久性とデザイン性を両立した改修

1994年の完成後から約30年、さまざまなシーンで利用され、町民もたくさん集まってくれたのですが、カモメなどの海鳥もたくさん集まったために、とくに屋根は、大分傷んでしまっていました。雨漏りの被害なども出るようになり、たびたび、鹿部町の方から相談をいただいていました。その都度、メンテナンスはしていましたが、2023年に「もとのイメージを活かしながら長寿命化を図りたい」とのご要望がありました。


今回の改修は、屋根の改修と防水改修、外壁改修、正面入り口付近の外構整正工事、アリーナの電灯をLED化する工事です。耐久性やデザイン性を考慮し、また、防鳥の対策など、今後20年、30年の長い年月、この場所で生きていく建物のことを考えると、屋根は三晃金属工業さんのステンレス防水であるR-T工法がベストな選択だろうという結論に至りました。当初のイメージを残したいというご希望からも、防水屋根にはシート防水でなく、屋根の存在感を維持するため、R-T工法しかないと思いました。

体育館屋根より駒ヶ岳を望む

体育館屋根より駒ヶ岳を望む

西側上空から

西側上空から

南側上空から

南側上空から

(改修前)アーチ型の屋根の上にドーム型の屋根

(改修前)アーチ型の屋根の上にドーム型の屋根

(改修後)ドーム型の屋根部分を、片流れの屋根に改修

(改修後)ドーム型の屋根部分を、片流れの屋根に改修

世代を越えて地域に根ざす存在に

私は函館・道南を拠点に活動していますが、地域で建築を手がける者として、建てた後も責任を持ち続けることが大切だと考えています。今後、ますます人口減少が進むなか、新しい建物をつくるだけでなく、いかに既存の建築に息を吹き返らせて長く使えるようにするか、今の時代に合った新しい価値をどのように付加するか考えなければなりません。また、空間をデザインするだけでなく、地域に新しい使い方を提案することも必要となってくるでしょう。この体育館はスポーツ施設だけでなく、避難所としても使用されています。他にもマルシェや地域イベントを行うコミュニティを広げる拠点として、さらには地域住民の健康増進施設のような場として、多様な用途に対応できるようにしていく必要があります。冷暖房設備の充実や可変性のある設計を取り入れることで、体育館は「屋内の広場」としてさらに活用の幅を広げられると考えています。より地域に開かれたフレキシブルで、変化可能な空間をつくることが重要になってくると思います。


今回の改修で、まちの方々に再び私を設計者として選んでいただいたことは大変感慨深いです。建築は時代とともに地域の記憶や人々の暮らしに寄り添い続けるものです。この体育館も、親世代から子ども世代へ、またその次の世代へと使い継がれ、地域に根づいた存在であり続けることを願っています。

施工に携わって  三晃金属工業㈱ 函館営業所

この体育館は、建設されてから約30年を経た建物で、改修工事として携わりました。全体の工期は2023年6月から翌年2月まで、屋根改修は9月から11月に実施しました。既存の屋根は当社施工のものではない、嵌合式の金属屋根でした。現場調査をすると、これまでの補修跡も散見され、だいぶ傷んでいました。建物を使用しながらの改修をご要望されていたため、工事中でも室内利用が可能で、防水性、耐候性の高いステンレス防水のR-Tカバー改修工法を採用いただきました。


施工では、長尺67mの屋根材をつくるために、屋根の高さまで仮設ステージを組んでいただきました。成型機をステージ上に設置して現場で成型し、継ぎ目のない一体屋根を実現しました。厚さ0.4mmで自由度の高い屋根材ですから既存の屋根面にもなじみました。断熱材やゴムアスルーフィングを挟み込み気密性を確保することで漏水リスクも低減しています。また、防鳥対策として回転式防鳥器具を80基ほど設置しました。軒先のディテールや軒と立ち上がりの部分の仕上がりについて、今回の改修で見てもらいたいところの一つ、と言っていただきました。それくらい施工班の協力によりきれいに納まっています。


函館地域では約30年ほど経過した建物の改修需要が増えてきました。「これから先の30年も使いたい。どうしたらよいか」という相談をいただくことも多くなってきました。この体育館のように、それぞれのご要望にお応えできる屋根で課題解決にともに取り組むことができたら嬉しいですね。

既存屋根の上にバックアップ材を敷く

既存屋根の上にバックアップ材を敷く

ゴムアスルーフィングを敷く

ゴムアスルーフィングを敷く

しっかりとした仮設ステージ

しっかりとした仮設ステージ

ゴムアスルーフィング敷き終わり

ゴムアスルーフィング敷き終わり

R-T 屋根材施工の様子

R-T 屋根材施工の様子

テーパー成型機を置くためのステージ

テーパー成型機を置くためのステージ

屋根改修ほぼ完了。駒ヶ岳を望む

屋根改修ほぼ完了。駒ヶ岳を望む

建築概要

所在地 北海道茅部郡鹿部町字宮浜265-1
事業主体 鹿部町
敷地面積 18,021.00㎡
建築面積 3,510.50㎡
延床面積 3,822.33㎡
構造規模 RC造一部S造
屋根仕様 R-T工法SUS445J2(ダルフィニッシュ仕上げ)t=0.4㎜ 2,187㎡
角波 高耐食性ガルバリウム鋼板(SGL)t=0.4㎜ 45㎡
設計 株式会社二本柳慶一建築研究所
施工 高橋組・工藤建設・佐藤工務店特定建設工事共同企業体
改修完了 2024年1月