名建築

地域とつながり貢献する
都内最大規模の物流施設

MFLP・LOGIFRONT 東京板橋

MFLP・LOGIFRONT 東京板橋

南西からの建物全景。手前の新河岸川、奥の荒川に挟まれた敷地。広大な面積の屋上には太陽光パネルが設置されている

日鉄エンジニアリング株式会社

建築本部 設計部 建築設計室長

檜垣 茂雄

物流施設として絶好の立地

東京都板橋区に都内最大規模の物流施設「MFLP・LOGIFRONT 東京板橋(以下、M・L東京板橋)」が、2024年9月末に完成しました。首都高速道路5号池袋線「中台」インターチェンジまで約2.7kmと、物流施設として交通インフラに恵まれた絶好の立地です。

ここは日本製鉄株式会社の工場跡地であり、23区内にありながら約91,000㎡の広大な敷地は大変希少です。事業主の三井不動産と日鉄興和不動産がまちづくり型物流施設の建設を計画し、私たちは「地域とつながる新しい産業機能の創出・地域に貢献する防災拠点の確立」をメインコンセプトに設計を進めました。

高さ約45m、6階建の本施設は、ワンフロア約36,000㎡、延床面積は約250,000㎡を有します。直方体の建物の短辺部分(東西方向)中央両端に上り専用、下り専用の2つのランプウェイを設け、フロアの真ん中に車路、南北が倉庫となっています。また西側のメインファサード側に事務所を設けています。倉庫は片側で4分割して使用できるように想定し、事務所も小さいテナント区画に対して分割して使えるような規模を確保しています。各階プランは基本的には同様です。他に施設内には大規模な冷凍冷蔵倉庫(テナント工事)や、東京都では初となるドローン資格取得・実証実験用施設「板橋ドローンフィールド」を併設しています。利用者専用のラウンジも設け、ドローンに携わる人たちの交流のスペースでもあります。

またこの「M・L東京板橋」は、東京都営地下鉄三田線「西台」駅から徒歩10分に位置し、電車やバスを使ったアクセスも良く、周辺に居住者も多いため、雇用を確保しやすい立地です。それを見越して雇用者用の自転車置き場を3か所に分散して設けています。雇用者のためのスペースとして、2階には南側の公開空地・新河岸川の風景を見下ろせる「パークサイドラウンジ」、6階には北側の荒川方面の景色が見渡せる「ビューラウンジ」を設けました。さらに屋上にもテラスを設けています。

充実した緑地エリア

公開空地を含め、周囲には約25,000㎡の緑地エリアを整備し、周辺地域の在来種を基本にした多くの樹木や花々を植栽して、季節ごとに楽しめるようにしました。トラックでの入出構が行われる北側から南側の新河岸川沿いの公開空地まで幅4mの緑道が整備され、所々にベンチを配置しており、近隣住民がウォーキングやジョギング、自転車で通行をすることも可能です。南側の公開空地には子ども用の遊具が設置された「わくわく広場」、イベントが可能な「あおぞら広場」などが設けられ、近隣住民が自由に利用できます。以前からあった新河岸川の水辺にある舟渡公園とつなぎ、明るい親水公園として一体的に整備しました。また「板橋ドローンフィールド」は、空き時間にはフットサルコートとして地域に開放する運用となります。

西側正面ファサード。新河岸川に沿って公開空地がつくられていて子ども用遊具が設置された「わくわく広場」、イベントが可能な「あおぞら広場」などが設けられ、近隣住民が自由に利用できる。「あおぞら広場」から建物2階にアプローチできるデッキ通路がつくられている

西側正面ファサード。新河岸川に沿って公開空地がつくられていて子ども用遊具が設置された「わくわく広場」、イベントが可能な「あおぞら広場」などが設けられ、近隣住民が自由に利用できる。「あおぞら広場」から建物2階にアプローチできるデッキ通路がつくられている

上空から見る広場と建物

上空から見る広場と建物

ランプウェイのスロープを壁面をつなげて波のようなデザインにしている

ランプウェイのスロープを壁面をつなげて波のようなデザインにしている

地域の防災拠点に

敷地は北側に荒川、南側に接する新河岸川という2つの川に挟まれた位置にあり、この地域一帯は以前水害にも見舞われた場所です。そのため、事業者と区と地域住民と共同して定められた地区計画では、板橋区の掲げる「河川氾濫時における水害に強い安心・安全な街づくり」の方針に沿って、この施設を「水害時緊急一時退避場所」として計画しました。水害時には地域住民約1,000人を2〜6階のフロア中央の車路部分に収容できます。

また、国内で初めて官民連携による「高台まちづくり」を実施。公開空地内の「あおぞら広場」には、緊急時にヘリポートにもなる部分を設けるとともに、水害時には、建物2階につながるデッキ通路で一時退避場所への退避路を確保しています。敷地内には「板橋区災害時配送ステーション」を設置。災害時に必要な飲用水・非常食などが備蓄されていて、区内の避難所に支援物資を配送する拠点となります。

また、建物自体を免震構造とし、大地震時の被害を最小限に抑えられるようにして保管商品の損傷のリスク低減にも対応しています。免震装置には、当社、日鉄エンジニアリングが開発した免震装置NS-SSB®(球面すべり支承)を426台設置、地震力を吸収する装置である免震NSUダンパー®48台も併用しています。

ランドマークとなるデザイン

物流倉庫は最大限の延べ床面積を確保し、効率的に棚を配置するために、平面も立面も長方形で窓が少ないものが一般的です。特にこの建物は6階建なので立面には巨大な壁が現れることになり、単調になりがちです。外装のデザインは、過去の物流施設でも実績のあるオーストラリアのデザイン事務所JACKSON TEECE社が起用されました。

板橋区は2011年から景観行政団体となり、建物を建築する場合、景観法に基づく届出や景観条例に基づく事前協議などが必要です。アドバイザー会議を経て、「白い波の彫刻」(White Waves)をコンセプトに、水色と白を基調とした空や波をイメージしたデザインになりました。ランプの車路から壁面に繋がるところや、建物のコーナー部に曲線を配しているところなどにもそのコンセプトが現れています。

外装面は「白い波の彫刻」がコンセプト。水色と白を基調にした空や波をイメージしたデザイン

外装面は「白い波の彫刻」がコンセプト。水色と白を基調にした空や波をイメージしたデザイン

2階エントランス

2階エントランス

物流倉庫内部

物流倉庫内部

1階エントランスへのアプローチ。特徴的な庇

1階エントランスへのアプローチ。特徴的な庇

省エネ+創エネを実現

この建物では環境も大きなテーマです。壁の断熱性能を高め、窓も環境に配慮したLow-Eガラスを使用することで建物自体の断熱性能を上げ、省エネを実現できました。また創エネの点では、40,000㎡近い面積を占める屋上全面に約19,000㎡、約4MWの太陽光パネルを設置。再生可能エネルギーの供給を可能にし、年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロとする最高ランクのZEB認証を取得しています。

屋根に求められる高い断熱性・気密性

物流倉庫では、気積を大きく取るために、四角い断面で陸屋根形状のものが多く見られます。そして屋根の重量を減らすため、主に折版が使われます。最上階の空間の熱負荷は当然大きくなるため、保管商品を守る、また作業者の環境改善の観点でも内部の温度が適切に保たれ、なるべく外気温の影響を受けないことが求められます。そこで熱負荷を軽減するには、シングル折版よりも上下2枚の折版に断熱材を挟んだダブル折版がふさわしいと言えます。従って迷わず三晃金属工業の丸馳折版Ⅱ型(ダブルパック)を選択しました。

通常は、鉄骨工事が終わった後に、下弦材、上弦材の順に現場成型で施工しますが、当社では、下弦材はジョイント工法を採用し、鉄骨工事と同時に施工しています。屋根を早く施工することで、内部の工事を天候の影響を受けることなく進行することができ、仕上がりの面でも工期の面でもとても有利です。

物流倉庫の屋根の機能としては、断熱ももちろんですが少しの雨漏りも許されません。そこで、リスクが全くないように完全な水密性を求めて、棟をつくらずシームレスにしています。

ますます物流の需要が高まる昨今、この建物が、物流倉庫としても地域の施設としても多くの人に安全に利用されることを願っています。

2階「パークサイドラウンジ」。南側の新河岸川や公開空地が見下ろせる

2階「パークサイドラウンジ」。南側の新河岸川や公開空地が見下ろせる

6階「ビューラウンジ」。北側の荒川方面の景色が見渡せる

6階「ビューラウンジ」。北側の荒川方面の景色が見渡せる

屋上広場

屋上広場

「板橋ドローンフィールド」。空き時間はフットサルコートとして地域に開放

「板橋ドローンフィールド」。空き時間はフットサルコートとして地域に開放

「ドローンラウンジ」

「ドローンラウンジ」

施工に携わって
三晃金属工業㈱ 東京支店

都内最大規模の物流倉庫施設である「M・L東京板橋」の広大な面積の屋根には、断熱性に優れた丸馳折版Ⅱ型(ダブルパック)を採用いただきました。

通常ダブルパックの場合、鉄骨が全て組み上がった後で、下弦材、上弦材どちらも現場成型で1本の材をつくっていきます。しかし今回は、下弦材は鉄骨工事と同時並行で10mずつつなげて施工するジョイント工法で行いました。

鉄骨の工区は60工区に分かれていて、鉄骨工事の順番に合わせて下弦材を葺いていき、その上に断熱材を敷き、上弦材は170mの1本の材を現場成型して葺いていく施工方法をとったことが大きな特徴です。そのメリットは、下弦材を施工し屋根が架かった所から室内のコンクリート工事などを進めることができることで、工期短縮につながります。

工場で成型した下弦材の揚重はクローラークレーンで行いましたが、建物の高さが約45mあるため、高所作業での揺れや風の影響を考えながら、安全管理にも留意しました。

上弦材の現場成型は、成型ステージを組んでいただき、建物の周りに敷かれたレール上を動く移動構台の上で行いました。通常、成型ステージは1層で、材料をセットするアンコイラーと規定の長さにカットする切断機、成型機を並べて配置しますが、今回はスペースがあまり取れなかったため、地上約45mの高さで2階建ての構台を設置して上階にアンコイラーと切断機を置き、材料をセットして規定の長さにカットし、下階で成型して屋上に材を押し出すという配置にしました。

クローラークレーンに合わせて屋根材の荷揚げを行ったり、決められた工区に合わせて施工したりするなど、さまざまな調整をしながらの施工でしたが、完成した屋根面はその集大成として、きれいに仕上がりました。

組み上がった鉄骨にタイトフレームを設置

組み上がった鉄骨にタイトフレームを設置

下弦材の工区境。クローラークレーンで下弦材を揚重

下弦材の工区境。クローラークレーンで下弦材を揚重

建物に沿ってレールの上を動く移動構台。構台を地上約45mの所に設置し上部で作業

建物に沿ってレールの上を動く移動構台。構台を地上約45mの所に設置し上部で作業

2層の移動構台。上階に材料をセットするアンコイラーと切断機が並び、下階から成型された材が屋上に引き出される(写真上)。下階の成型機(写真下) 2層の移動構台。上階に材料をセットするアンコイラーと切断機が並び、下階から成型された材が屋上に引き出される(写真上)。下階の成型機(写真下)

2層の移動構台。上階に材料をセットするアンコイラーと切断機が並び、下階から成型された材が屋上に引き出される(写真上)。下階の成型機(写真下)

上弦材施工の様子。白いラインは上弦材と下弦材の間に入れる断熱材。断熱材を敷いた上に上弦材を葺く

上弦材施工の様子。白いラインは上弦材と下弦材の間に入れる断熱材。断熱材を敷いた上に上弦材を葺く

建築概要

所在地 東京都板橋区舟渡4-3-1
発注者 三井不動産株式会社・
日鉄興和不動産株式会社
敷地面積 91,255.58㎡
建築面積 44,317.65㎡
延床面積 256,157.63㎡
構造規模 鉄骨造(免震構造) 地上6階
屋根仕様 丸馳折版Ⅱ型(ダブルパック)上弦材/ガルバリウム鋼板 t=0.8mm 39,574㎡
丸馳折版Ⅱ型(ダブルパック)下弦材/ガルバリウム鋼板 t=0.6mm 39,574㎡
ソーラーシステムSフィット(4,325kW)7,458枚(22直列×339並列)
設計·監理 日鉄エンジニアリング株式会社一級建築士事務所
施工 日鉄エンジニアリング・佐藤工業共同企業体
竣工 2024年9月