設計がはじまる
(マウントフジアーキテクツスタジオ)
シンプルな形の組み合わせから印象的な建物を設計するマウントフジアーキテクツスタジオのお二人。建築についての考えや、異なる素材の組み合わせ、周辺環境への配慮などについてうかがいました。
シンプルな形の組み合わせから印象的な建物を設計するマウントフジアーキテクツスタジオのお二人。建築についての考えや、異なる素材の組み合わせ、周辺環境への配慮などについてうかがいました。
——事務所設立前の経験や設立のきっかけを教えてください。
出身の芝浦工業大学では、施工や材料、街、都市づくりという、意匠に留まらない範囲から建築を捉える三井所清典研究室で学びました。大学院修了後は3年間、隈研吾建築都市設計事務所でさまざまな構造形式を経験し、民間・公共、小さなものから万博レベルまで担当することができました。その後、バルセロナのホセ・アントニオ&エリアス・トーレスアーキテクツで1年少し仕事をした経験も活きていると思います。
独立後のアトリエの名称は、日本に帰る前に、2人でアンダルシアを旅しながら考えました。大きくてラッキーなものがいいだろうと、富士山から名づけました。
日本に戻って1年は、磯崎新アトリエで北京の美術館のプロジェクトに携わり、その合間に手掛けた陶芸アトリエ「XXXXHouse」がマウントフジアーキテクツスタジオのデビュー作です。
これまで一貫しているのは、建築を抽象的に捉えるだけではなく、具体的な街や建築、家具、素材など、そこにあるものを操作することとしても捉えていることです。
私も芝浦工業大学出身で4年後輩です。高校時代から建築に進むことは決めていて、大学に入ってからはスケッチやバラガンの作品をトレースしたり建築の計画に燃えていました。3年の春にスカルパの具象的な建築を見て、設計は空間を描く行為ではなく物を描く行為だと気付きました。それで象設計集団で丁稚奉公するため北海道へ。建築そのものを知りたくて3、4年の頃は現場に通っていました。就職氷河期でしたが東京と北海道を行き来しながら建築に没頭し、卒業制作の展覧会にも熱中して気付いたらあと3日で卒業という状態でした。
卒業後は事務所に所属せず、鈴木明さんの建築都市ワークショップで子どもたちに建築を教えるワークショップのスタッフや、無印良品の立ち上げに携わった小池一子さんのところで現代アートの展覧会のお手伝いなどをしていました。
独立した頃はそれまでお世話になった方々に助けていただきました。小池さんは最初に借りたオフィスの大家さんでもあります。
——建築のアイデア出しや設計の進め方はどのようにしているのでしょうか。
アイデアが生まれるのはタイミングもあるので、どちらかが生んだものについて、いい悪いをお互いにジャッジしています。
「道の駅ましこ」は原田さんがスケッチを描きました。一目で「これ以外にない!」というかたちでした。
三角形の相似形のつながりをつくり、幾何学的な解決をしました。どの案件にも文化的な状況、空間の伝統、地域の歴史、土地の形、手に入る材料、予算、法的条件を解決する幾何学要素が潜在的にあります。一つひとつの課題にリニアに答えながら形にするのではなく、溜まった情報から一撃で解決する道筋を見出します。それを見つけ出した瞬間には、鐘が鳴るのが聞こえる気がします(笑)。
設計中に迷子になりそうなときにも、道しるべになるかたちがあれば、みんなの意思を揃えることができます。
僕たちの作品はどれも単純な秩序からできていますが、建てる場所や状況にフィットしていることが大事なので、ただ単純であればいいわけではありません。
秩序がフィットしているかいないかではなく、秩序のもとから生まれて抽象化されているものを見つけるまで考えます。
僕たちは具体的な環境や素材をそのまま操作して建築物をつくっている側面があります。建築には建築空間をつくることと建築物をつくることの2つの要素があります。日本の建築界は近代以降、空間が建築の操作の本質的な対象であるという見方をしています。しかし一般の人々が時々、「大黒柱は太い方がいい」などと言うのは、空間の話ではなくて大黒柱が放つ場所性です。
僕たちは空間を設計の対象にすると同時に、場所とその中心にあるモノも主役として設計しています。モノと空間の関係がデザインの根本にあって、その両方を切り結ぶような幾何学を見つけたときに鐘の音がするのです。
道の駅ましこ(2016) 日本建築学会賞
Photo:mashiko company
——次に、屋根に使う素材と建築の関係について教えてください。
建材の中でも防水材料にはいろいろありますが、中でも金属板は折り目をつけたり、曲げたハサミの跡があるなど、素材自体がその存在を主張しています。そこが気に入っていて、屋根にはよく金属板を使っています。特に見える部位の防水材ではピカイチだと思います。
自宅は金属屋根の平葺きですが、全長2.7m×5スパンで1枚ものの金属板を現場で屋根に成型して、職人さんが仕上げました。雨が降ると、金属の屋根にあたる雨音を心地よく感じています。
「道の駅ましこ」では地場産の 八溝杉 による屋根架構がいろんなピッチで並んでいて、そこに金属屋根が載っています。妻側から見える屋根のボリュームは少ないですが、平側から見ると板金のストライプが一面に立ち上がっています。金属板がコガネムシの羽のように構造色になっていることも気に入っています。見る角度や光によって色の出方が一様ではない現れ方をしますから。
——「FLAPS」は、素材を見せる他の建築とは少し違うように思います。
「FLAPS」は、流山おおたかの森の駅前に立つ商業施設です。ここは関東平野の真ん中あたりに位置していて、2006年頃から官民で足並み揃えて開発を進め、駅前に残った最後の空地でした。そこで街のブランドを高めるものがほしいと指名コンペがあり、選んでいただきました。
これまでとは違う作品と感じたかもしれませんが、僕たちは連続的にとらえています。「建築」は文字通り、建てると築くからできていて、建てるのはフレームを組む仕事、築くのは土地の操作。それらのミックスとしての建築的デザインがあって、プロジェクトごとにその配分が違います。
「FLAPS」は山を築くです。敷地は真っ平らな関東平野で上から見渡すことがなかったので、自分たちの街がどのようにできているか見える小山をつくってはどうだろうと考えました。建築単体としては山のようなデザインで、周りにある既存の駅舎やショッピングセンターを含め、群造形としては摺鉢地形をつくりました。
窪地にはみんなが見合う集約感が生まれます。高台はそれとは異なり、風に吹かれて広い世界を一人で見晴らせるような経験があります。そういう高低差のある地形的な喜びを建築でつくろうというのが発想の原点です。
以前は窪地に人の流れがありませんでした。いくらショッピングセンターが賑わっていても外に人がいないと寂しいですね。建物の中にお客さんを囲い込むのではなくて、訪れた人たちが街から見えるようになることで、その人たちも街の景観をつくる主体になっていきます。そこで「FLAPS」の外側には階段をつくりました。
通常は裏側の避難階段を表側に持ってきて、使う場所にしようと考えました。
中にはエスカレーターがありますが、外の階段を使うお客さんが多いです。駅と既存の商業施設の2階レベルにはもともと都市的な広がりがあったので、「FLAPS」とブリッジでつなげたことも人の流れに大きく関わっていると思います。素材は、人が歩くところだけを木にして、外観は風景を引き受ける、という考え方でセメント質にしています。
FLAPS(2021) グッドデザイン賞
Photo:Ryota Atarashi
——風景を引き受けるとはどのようなことでしょうか。
敷地は車が入らない都市公園です。そこに商業的な強い色が出てくると、大声のようで強過ぎます。公園で感じられる、木々の色の変化や風を感じるなどの自然の微細な豊かさが見えづらくなってしまいます。
外観のデザインだけでなく、広告や看板の色を抑えることも共通の考え方にしました。それを実現できたのは、デベロッパー側に共感してもらえたからです。そしてその基になっているのは、ここに住む若いひとたちが、大声でないサインを読みとってくれるだろうという信頼です。
デザインは図と地でできていて、それが入れ替わりながら構成されています。「FLAPS」は素材としては思い切りグレーで地です。だから、おおたかの森が図になるわけです。でも形のレベルで見ると、ひな壇のような建物は図に変換されます。ここでは図と地の反転をたくさん起こしています。僕たちのデザインの組み上げ方が一般の図と地とは違っていることそのものも、図になりますね。
与えられた敷地だけを設計しているのではなく周辺も含めて考えて、この建築が地となることで他に図となる空間が生まれ、デザインが派生していくようにしています。
——「STROOG社屋」はCLTと鋼板で構成されています。
現代建築の一つの祖型はドミノシステムです。スラブがあって柱芯が上から下まで通っている。それが建築の秩序だと学びますね。しかしながら幅方向にも長さ方向にも強軸をもつCLTの場合、切り込み位置は自由。どの部位も柱としても梁としても機能するので、つまり構造芯から自由になります。
ここでは幅3m長さ12mのCLTのマザーボードの板を、柱であり梁でもある部材として組み合わせています。建築的な革新性の一方、温暖化を抑制し都市を木質化するための手だてを増やさなければいけない。それには大量のCO2固定化が図れるCLTを使った大規模空間のつくり方を普及させていくことは有効です。サステナブルへの処方箋の意味もあって木を使った作品を増やしています。
この建物はクライアントも私たちもCLTを使うという共通の意思で始まりました。
CLTを包むのは金属板です。木材は湿気をともなうので、それを空気中に放すためにドライな空隙がほしい。だから木と防水層の間に空間ができる金属板は非常に適しています。
STROOG社屋(2022)
Photo:Ryota Atarashi
——CLTと鋼板の関係もいいですね。
コントラストのつくり方も大事です。僕たちは彩度でコントラストをつくらないようにしています。ここでは素材の対比を見せたいので、色よりも物の方が図になるように彩度の差を抑え、明度も白と黒のようにはせず、図と地の対比が起こらないようにしています。そのための素材として、彩度のない金属板はちょうど合いました。
——金属板の印象や要望などがあれば教えてください。
合金の薄板と表面仕上げ。それが既に折られているものか、自分で折るタイプか、という素材として捉えています。ですから壁用、屋根用とは考えていなくて、内装や家具に使うことがあるかもしれません。
要望としては、既製色が少なくて組み合わせが限られているので、たとえば銀と銀黒の間に銀灰など、色のバリエーションがもう少しあるといいですね。
金属板の面白さは、薄い鉄の板にメッキされているというハイブリッドな材料であること、そしてその素材性を押し出していることです。
要望としては、完成品ではない半製品があると嬉しいですね。現場で色目やツヤの若干の調整ができると、金属の可能性も広がります。また、脇役となる商品があるといいですね。黒がより黒ければよいかというとそうではなくて、黒すぎるとそこだけが強調されてしまいます。だから主役というより脇役的な商品を使いたいですね。
——最後に、今後の展望について教えてください。
空港の設計をしたいとずっと思っています。空港には、希望や出会いがあるし、違う世界へつなぐ場所なので、とてもわくわくしますね。風や衝撃などの物理的な要素が重要なので即物的な純粋性があります。
私は横浜育ちなので、ベイブリッジができたときには見に行き、横浜の街並みにスーッと橋が架かって構造の向こうに風景が透けて見えるのを目にして感動しました。こんな仕事をしたいと建築を選んだら、橋は土木だったんですよね……。
橋も構造的、力学的な美学が支配していて、景観の中でも大きな役割を占めています。
発電所などのエネルギープラントも特別なジャンルのようになっていますが、課題を解決しつつ、その土地の景観になじむものをデザインできればと思っています。
乗り物の設計にも興味がありますし、建物に限らず、いろいろなものを設計したいですね。
——ありがとうございました。
原田 真宏(はらだ・まさひろ)
1973年 静岡県生まれ。1997年 芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了。1997年 隈研吾建築都市設計事務所。2001年 ホセ・アントニオ&エリアス・トーレスアーキテクツ。2003年 磯崎新アトリエ。2004年 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO設立。2017年 芝浦工業大学 建築学部建築学科 教授。
原田 麻魚(はらだ・まお)
1976年 神奈川県生まれ。1999年 芝浦工業大学建築学科卒業。2000年 建築都市ワークショップ所属。2004年 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO設立。