名建築

雪深い地域に誕生した
親しみやすいスポーツ施設

カクヒログループスーパーアリーナ
(青森市総合体育館)

カクヒログループスーパーアリーナ(青森市総合体育館)

建物全景。青森市の中心部に位置する。1つの大きなボリュームの中に各施設を入れるのではなく、各施設がそれぞれ箱状に分かれて組み合わさっている。
一番高く大きなボリュームがメインアリーナ。左がサブアリーナ。建物前面には、利用者が雨・雪に濡れずに歩けるようにシャープな庇が続く

大成建設株式会社

設計本部 建築設計 第7部 部長

川野久雄 氏(管理技術者代行)

設計本部 建築設計 第7部 部長

藤本鉄平 氏(建築設計主任技術者)

設計本部 建築設計 第7部 室長

堀川 斉之 まさゆき

設計本部 建築設計 第7部
プロジェクトアーキテクト

高岩 遊

*設計者のご所属は取材時のものです

コンセプトは「健康」「交流」「防災」

2024年7月1日、青森市の中心地に位置する青い森セントラルパーク内に、カクヒログループスーパーアリーナ(青森市総合体育館)がオープンしました。2020年、青森市によって、アリーナと公園を、Park-PFIとDBOのスキームで整備・運営を行う事業者の公募型プロポーザルが行われ、設計者として、国立競技場の設計を手掛けた隈研吾建築都市設計事務所と私たち大成建設設計チームに、地元青森市の川島隆太郎建築事務所を加えた3社の設計共同企業体が選ばれました。また、引き渡し後15年間の運営管理まで、私たちが代表を務めるコンソーシアム11社が一貫して行うことになりました。

プロポーザルの際、青森市は「健康」「交流」「防災」という3つのコンセプトを掲げていました。

日本の47都道府県の県庁所在地の中で、青森市はトップの降雪量であり、世界の都市の中でも屈指の豪雪地帯です。そのため、「健康」面では、冬場の運動不足は深刻な課題であり、市民待望の屋内スポーツ施設です。「交流」面では、コンソーシアム11社の中にはイベントの企画・運営会社も含まれていて、プロスポーツや国体、コンサートから市民イベントまでさまざまな催しを開催することが可能です。そして「防災」の面では、海が近いこともあり、敷地を少し高台にして周辺住民が安全に避難でき、地震・水害に強い施設にしています。

ボリュームを抑え景観に寄り添う施設

設計要件として求められたスペースとして、プロスポーツ仕様の「メインアリーナ」、市民向けの「サブアリーナ」、県内有数の規模を誇る「キッズルーム」、パーティションで3つに分けられる「多目的ルーム」があります。

収容人数約3,500人(コンサート時は約5,000人)の「メインアリーナ」は、木に包まれたアリーナがテーマ。県産材をふんだんに使った温もりのある空間です。プロバスケットボールBリーグに所属する「青森ワッツ」のホームアリーナでもあり、コンサート会場としても利用されます。

建物の中央には私たちが独自に提案した屋根付き半屋外スペース「ヨリドマ(よりどころ土間)」があります。鉄骨と木のハイブリッド構造の大空間です。ここでは天候や季節を問わずにさまざまなイベントを行うことができ、オープニングセレモニーのテープカットもここで行いました。防災広場としての役割もあり、炊き出しなどにも使用できます。

建物全体を1つのボリュームにすると、周辺の住宅地に対して威圧感のある大きさになり、公園の風景も変えてしまうのではないかという懸念がありました。そこでいくつかの箱が集まったような構成にしてボリュームを抑え、周辺の景観や住宅に寄り添うような建物になるようにしています。また外壁も自然景観にマッチするアースカラーを選びました。

雪・風のシミュレーションを繰り返す

設計にあたって、雪・風のシミュレーションを時間をかけて綿密に行いました。

雪国では勾配屋根にして雪を落とすという考え方もありますが、青森は、雪を落とすと建物への出入りができないくらいの積雪量のため、陸屋根にする無落雪工法を採用しました。パラペットの立ち上がりは通常600mmのところを1,500mmにして雪を溜めます。アリーナは無柱空間なので積雪量を考えると葺材は軽い方がよいため、雪を溜める防水性能を考慮して、シート防水にすることを当初から決めていました。また、遮音性能、断熱性能も必要です。三晃金属工業は遮音性能の高い下地材断熱材雪に強いシート防水ハイタフEGの組み合わせで大臣認定を取られていたので、迷うことなく採用しました。いろいろな高さ・大きさの箱が重なり合う建物において、トップライトの立ち上がりや2つのアリーナとヨリドマの接する部分などを変幻自在につなぐことができることも、成形しやすいシート防水の強みだと思います。

また、雨や雪を避けて建物にアプローチできる通路「コミセ」の金属屋根に関しても、勾配や跳ね上がりを調整していますが、軒先もとてもシャープに美しく仕上がっています。

完成から約2か月、多くの市民の方々に使用していただいているようです。地元の方々から「ずっと前からここにあるようになじんでいる、とても親近感のわく建物だ」と言っていただき、設計者冥利につきます。多くの人に親しまれる建築であり続けてほしいと願います。

(大成建設 堀川斉之)

Park-PFI:都市公園の魅力と利便性の向上を図るために、公園の整備を行う民間の事業者を公募し選定する制度。
DBO:Design-Build-Operate 公共団体等が資金調達し、民間事業者に施設の設計・建設・運営を一体的に委託して実施する方式。
メインアリーナ。柱・壁・天井全てに県産材の木をふんだんに使った温もりのあるアリーナ。プロバスケットボールBリーグに所属する「青森ワッツ」のホームアリーナでもあり、Vリーグ(バレーボール)等のプロスポーツの公式試合に対応。コンサート会場としても利用可能

メインアリーナ。柱・壁・天井全てに県産材の木をふんだんに使った温もりのあるアリーナ。プロバスケットボールBリーグに所属する「青森ワッツ」のホームアリーナでもあり、Vリーグ(バレーボール)等のプロスポーツの公式試合に対応。コンサート会場としても利用可能

市民スポーツを想定したサブアリーナ。木の壁の下はガラスの開口部になっている

市民スポーツを想定したサブアリーナ。木の壁の下はガラスの開口部になっている

青森で最大規模となるキッズルーム。子どもの成長に合わせた遊具を備える。7月オープン以来、親子で楽しめる人気の施設となっている

青森で最大規模となるキッズルーム。子どもの成長に合わせた遊具を備える。7月オープン以来、親子で楽しめる人気の施設となっている

南側広場からの眺め。それぞれの箱は無落雪工法を採用した陸屋根としている。屋根にはシート防水ハイタフEGを採用

南側広場からの眺め。それぞれの箱は無落雪工法を採用した陸屋根としている。屋根にはシート防水ハイタフEGを採用

中央にある半屋外スペース「ヨリドマ」。鉄骨と木によるハイブリッド構造の大空間広場。奥の2階突き当たりのデッキは、冬季は「かっちょ」(津軽弁)と呼ばれる防雪柵が付けられる

中央にある半屋外スペース「ヨリドマ」。鉄骨と木によるハイブリッド構造の大空間広場。奥の2階突き当たりのデッキは、冬季は「かっちょ」(津軽弁)と呼ばれる防雪柵が付けられる

施工に携わって
三晃金属工業㈱ 青森営業所

メインアリーナ、サブアリーナ、多目的ルーム、キッズルームの4つの箱と、それらの真ん中にあるヨリドマ、そして東側、建物に沿って長く設置された庇、計6箇所の屋根を施工しました。当社の施工期間は、2023年5月から24年3月。施工期間前の22年の冬に打ち合わせをしてモックアップサンプルの屋根を作成しました。

メインアリーナ、サブアリーナ、多目的ルーム、キッズルームは広い面積をハイタフEGで仕上げています。これだけの規模の陸屋根の施設は青森ではあまりありません。材料の物量が多く、同時期に作業を行う他業者と綿密な打ち合わせなどを行いながら工事を進めました。

それぞれの屋根をどの順番で工事をしていくのか、建築工事の進捗状況も見ながら細かく工程を考えていくことが求められました。まずキッズルームからスタートし、メインアリーナと多目的ルームを行き来しながら進め、次にサブアリーナ、ヨリドマへ。23年中の雪が降らないうちに防水に関しては作業を済ませ、24年1月からは庇工事を行いました。

キッズルームとサブアリーナ、ヨリドマの屋根は平面が入り組んでいて、高さも異なります。四角の角の部分、端部は複雑で納め方が難しい箇所でした。

庇も途中で勾配が変わって、最後は「コミセ」という歩行通路の屋根と一体化しています。ハイタフEGとハイタフメタルによって板金と防水を一体化することで、防水機能を持ちながらもシャープな仕上がりになりました。

職方さんにきれいに納めてもらい、設計者の方からのご要望だったシャープな庇を実現できたと思います。

メインアリーナの樋と立ち上がり部分。雪を溜める無落雪工法のため立ち上がりは約1.5m

メインアリーナの樋と立ち上がり部分。雪を溜める無落雪工法のため立ち上がりは約1.5m

断熱材を敷き終わって養生をしている。周辺に線路もあり、資材が風で飛ばされないようにネットをかけロープで厳重に固定

断熱材を敷き終わって養生をしている。周辺に線路もあり、資材が風で飛ばされないようにネットをかけロープで厳重に固定

50mのラフタークレーンでどこまで物が届くかを確認

50mのラフタークレーンでどこまで物が届くかを確認

クローラークレーンでデッキやハイタフEGの材料を荷揚げ。作業スペース、荷揚げスペースは比較的広い

クローラークレーンでデッキやハイタフEGの材料を荷揚げ。作業スペース、荷揚げスペースは比較的広い

メインアリーナの工事に着手する前の進捗と安全確認。高さ20mの作業なので安全対策に万全を期す

メインアリーナの工事に着手する前の進捗と安全確認。高さ20mの作業なので安全対策に万全を期す

メインアリーナにデッキを敷く

メインアリーナにデッキを敷く

建築概要

所在地 青森県青森市大字浦町字橋本335-17
発注者 青森市
敷地面積 51,547.12㎡
建築面積   9,792.71㎡
延床面積 12,063.17㎡
構造規模 鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造 地上3階
屋根仕様 ハイタフEG/エチレンプロピレンゴム系 t=1.52mm 約8,000㎡
F型特殊立平金属防水屋根工法/
カラーガルバリウム鋼板 t=0.4mm 約800㎡
設計 隈・大成・川島設計共同企業体
監理 隈・川島工事監理共同企業体
施工 大成・藤本特定建設工事共同企業体
竣工 2024年3月