FOCUS ON ARCHITECTS

自然環境を受け入れ
理由のある形、建物をつくる
末光弘和さん 末光陽子さん(SUEP.)

設計活動に環境シミュレーションを取り入れ、環境に配慮した建物を数多く手がけるSUEP.は、事務所内にlab.(ラボ)を設けて環境に関する調査・研究も行っています。

より豊かで快適な空間をつくるために、デザインとエンジニアリングをどう結びつけていくのか、事例や今後のアイデアなどを交えてお話をうかがいしました。

末光弘和さん 末光陽子さん(SUEP.)

——子どもの頃はどのようなことに興味をもっていましたか?

末光弘和

父が愛媛でガラス屋をやっていて、小さい頃から建築が近くにありました。また、父が好きなプログラミングや情報系にも興味があり、そういう経験が今のラボやシミュレーションにつながっているのかなと思います。

末光陽子

実家が障子紙の工場で、伝統工芸の町で育ちました。私は小さい頃から理科や科学が好きで自然や生き物にも興味があり、環境に関する仕事をしたいと思っていました。

——環境シミュレーションを建築に積極的に取り入れていますね。

弘和

大学卒業後、伊東豊雄建築設計事務所に入ったのはせんだいメディアテークができた2001年です。構造解析技術は90年代に大きく進化しましたが、環境のシミュレーションソフトは高価で思っていたことも十分にはできませんでした。2000年代後半の独立後に環境のフリーソフトが出てきて、自分たちで風や熱の解析ができるようになりました。

陽子

住宅で機械設備を入れる提案をすると予算の関係で断念することがあって、自然エネルギーを最大限取り入れた設計をしたいと思うようになりました。

建物ができると周囲の風の流れも変わります。建物の中にどれだけ風が入るかだけでなく、どういう風のラインをつくるか、外と中の関係を検討することが重要だと考えています。

弘和

風だけでなく水についても考えています。2014年に竣工した佐賀の「嬉野市立塩田中学校」は、近くの伝統的建造物群保存地区の町並みと調和するように、金属屋根が連続する折れ屋根にしました。その形状は雨水の流れ方をシミュレーションして決めました。屋根の谷に水を集めて、柱に仕込んだ縦樋を通して貯水タンクに溜め、庭にじわじわ浸透させています。学校が川の中州にあるので洪水のシミュレーションも行い、水害を避けるために校舎を高床にしています。

近代建築、都市は自然のリスクをどう排除するか(すぐ下水に流すなど)という考えでつくられています。そうではなくて、塩田中学校のように雨水を上手に使って緑に水を与えたり、景観・美観につなげたりすることを考えています。このように自然をどう受け入れて共存するかを検討し、それが建物の外形に現れてくることも多いです。

陽子

私たちは形態の根拠を探すためにも、シミュレーションを繰り返しています。普通の設計でも時間に余裕がないので、シミュレーションを入れると設計期間はさらに厳しくなりますが、探究心を忘れずに、形の検討を繰り返して決定します。

弘和

「淡路島の住宅」(2018年)のクライアントは環境への意識が高く、ゼロエネルギーで地場の素材を使ってほしいというリクエストでした。木造の建物を地元産の淡路瓦のスキンが籠のように囲い、日は遮るけれども風を通します。それ以外にも地中熱を利用した冷暖房や太陽熱を利用して給湯エネルギーを賄うなど、環境シミュレーションによる解析をしながら決めていきました。

今は建物の多くがボックス型になり、室内環境を機械技術で制御しようとしていますが、東南アジアのように自然と上手に付き合い、半屋外も利用するような建築を意識しています。

——金属屋根を使う場合に気をつけていることはありますか?

弘和

金属なので屋根面は結構熱くなります。その熱を捨てるのではなく、屋根で温めた空気を軒から室内に取り込み、暖房に使うということをこれまで何回かやりました。

私たちが設計する建物は、集熱を考えたり屋根の形状が変わっていることが多く金属屋根を使うことがあります。

陽子

金属屋根は太陽を反射するので、デザイン的にシルバー系を使いたいけれど周辺への影響を考えて黒っぽい色を選ぶこともあります。白っぽくても熱を吸収するようなものがあればいいですね。それから屋根の勾配がとれないと金属屋根を採用できません。また金属屋根に少しずつ出てくる風合いや表情も、もっと受け入れられるといいと思っています。

弘和

情や質感もそうですが、実際に環境に良いのは、金属屋根の性能や耐久性がさらに上がって丈夫で長持ちすることです。

「淡路島の住宅」

「淡路島の住宅」

撮影:中村 絵

「嬉野市立塩田中学校」

「嬉野市立塩田中学校」

撮影:中村 絵

——今後の展望などを教えて下さい。

弘和

最近、九州大学で「 BeCAT ビーキャット 」というスクールを立ち上げました。芸術と技術を使った環境建築を考えるセンターです。今の環境建築は北欧、ヨーロッパ型の寒冷地が中心ですが、世界の人口の半分はアジア圏で生活しています。私は気候変動も考えると、アジア型のプロトタイプをつくって九州から発信したいと思っています。

大学や設計事務所などと企業が一緒になって環境に関するものを開発し、それを社会で実装できればいいですね。新しい屋根の開発も面白いと思っています。例えば屋根の縦馳は防水の押さえでつくるのでしょうけれど、そこに空気を流して熱を集めたり、水を流せば温まって室内の給湯に使えるなど、企業さんと共同開発とかをしてみたいですね。

陽子

建築では、さきほどの瓦のように地元の産業や資源などの循環も見据え、さらに産業廃棄物のことも考えていかないといけません。私は環境に興味があるし地球に対してどのように振る舞うかを常に考えていきたいです。

弘和

そういう意味では、「環境」という言葉は「循環」に変わってくるのかもしれませんね。

陽子

素材を選ぶときに、これは誰がつくったのか、どういう工程でつくられているのか、設計する側も共有して責任をもって考えるようにしていきたいです。

弘和

農業は少なくともそうなってきているので、工業製品もそういう時代になるのではないでしょうか。作り手の顔やプロセスも見えてくる、そういうところから関われたら面白いですね。

末光弘和(すえみつ・ひろかず)

愛媛県生まれ

2001年〜伊東豊雄建築設計事務所

2007年〜SUEP.

2020年〜九州大学大学院准教授

末光陽子(すえみつ・ようこ)

福岡県生まれ

1997年〜佐藤総合計画

2003年〜SUEP.

2018年〜21年 昭和女子大学非常勤講師