時間軸を意識した建築を考える
MARU。architectureは、これまでに住宅や集合住宅から大規模な建築まで次々と手がけ、現在も公共建築など多くのプロジェクトが進んでいます。
さまざまな形の建物を生み出しているお二人に、建築の形とそれを取り巻く環境、一貫した考えなどについて、公共建築を中心にお話ししていただきました。
MARU。architectureは、これまでに住宅や集合住宅から大規模な建築まで次々と手がけ、現在も公共建築など多くのプロジェクトが進んでいます。
さまざまな形の建物を生み出しているお二人に、建築の形とそれを取り巻く環境、一貫した考えなどについて、公共建築を中心にお話ししていただきました。
——独立前の経験で今につながることはありますか?
佐藤総合計画に10年在籍し、図書館などの公共建築をいくつか担当しました。いろいろな役割の方たちと一緒に建築をつくっていくなかで、設計者がコラボレーション自体をデザインしていくという経験ができたことは大きかったですね。
大学生のときから入り浸っていたNASCAで2つの小学校の設計に関わりました。そこで構造や設備も含めてさまざまなコラボレーターと一緒につくっていくことを学びました。事務所を始めてからも、構造や設備、サインやランドスケープなどの多様な方たちを巻き込みながらつくることを重視しています。
——土佐市複合文化施設は形や素材が複雑に構成されています。
図書館、ギャラリー、ホールなどが一緒になった建物です。1万㎡くらいありますが、機能が分かれるのではなく自由にみんなが使えるような空間をつくりたいと考え、「道」を 1 つのキーワードにしました。日本では、道にいろいろなものが集まる文化があります。この街もそういうことが顕著にあります。
土佐市では日曜市が道に並び、お祭りや
公共施設を部屋と廊下で分けるのではなく、共用部分そのものに人が集まってほしい。それで「道」の文化を引き込んでつくりたいというのが、この建築の大きな考え方です。
さらに建物の入り口をオープンにすることで前の道ともうまく連携していきたい。
外側のファサードは、内部にもそのまま現すことを考えました。例えば、外が市松の部分は、光の入り方で室内に模様が現れます。内部に設置された鉄骨のフレームを木で挟んだ耐震壁も、あえて外から見えるようにしています。そういう現し方をいろいろスタディして最終形に至りました。
引き算でデザインする方法もあると思いますが、その先が洗練されていくだけでは人の居場所がだんだん淡泊になってしまいます。ここでは整えつつ、いろいろなものを足しながらデザインしていくことを考えました。また、効率よくきれいに並んでいるものを積極的に重ねることで、居場所のきっかけをさらに複雑につくっています。
それぞれの場所ごとに仕上げも全部変えています。スチールのカーテンウォールの内側には図書館が入っていて、日差しをうまくカットしながら読書空間に柔らかい光を取り込んでいます。床が区切りなくずるずるとつながっていますが、人が留まる場所には耐火煉瓦を埋め込んで、溜まりの場所をつくるなどの細かい操作をしています。
土佐市複合文化施設(2019)
Photo:Kai Nakamura
——大阪府にある松原市民松原図書館は独特の色と形をしています。
この街に当たり前のようにある古墳をイメージし、建物も自然物に近い振る舞い方ができないか、そういうたたずまいは何だろうと考えるところから、設計が始まりました。
長大な壁が垂直に立つのは息苦しいと感じていて、それが斜めになった瞬間に自分との距離感やスケール感がちょっと狂わされることがあります。平面的に斜めにすることもそうですが、常に正対しない関係をつくることは、身体感覚にとって大事なことだと考えています。
土佐と松原で共通しているのが、建物の中をぐるぐる巡っていく体験をつくろうとしたことです。どのようにすると人が自然に上まで行くか、どのような位置で外の風景を見るだろうかと考えています。山を上っていくような感覚は、単に階段を上るのとは違う豊かさがあります。
外壁は色粉を混ぜたカラーコンクリートです。色粉の割合は同じでも、型枠に荒ベニヤを使用することで、表面のテクスチャーや色の現れ方が違ってきます。これがグレーのコンクリートだと要塞のように見えてしまうため、街並みと調和するような色を選びました。真新しいというより、少し時間の経過を感じさせるような外観にしたいという意図からも、この色合いになりました。
——建物の内と外の関係はどのように考えていますか?
建物の内と外で空間がはっきりと分かれているより、街で体験したことが建物の中に入っても連続して感じられることが大事だと思っています。そのために同じ素材が内外にわたることが多いです。松原は厚さ600mmの象徴的なコンクリートが室内にも現れています。現在設計が進んでいる伊東市新図書館は、ヒダ状の壁を中に刺さるように貫入させて、内と外の連続性を表現しています。
松原市民松原図書館(2019)
Photo:関拓弥
伊東市新図書館(2024完成予定)
——金属屋根についての考えを教えてください。
乾式で屋根をつくるときは、ほとんど金属を使います。金属のいいところは、そのもの自体に素材感があるし、軽さを表現できるところです。
壁と屋根を一体につくれることが魅力的です。光の反射や透過を検討するときに、反射というとまず金属が思い浮かびます。どのように光を入れてそれを反射させるのか、どれくらい鈍く反射させるのかを考えています。
金属と光との関係はすごく魅力的です。
——現在手がけている伊東市新図書館について、これまでの作品と共通する点や新たな考えを教えてください。
設計で一貫していることは、居場所の違いによる空間体験や、素材や時間の尺度が違うものの組み合わせを考えていることでしょうか。
最近手がけた木造のリノベーションでは、古い構造を生かしながら現代の技術を駆使した鉄骨のフレームも使っています。新旧の構造と技術を共存させています。
建設場所の伊東市は、伊豆半島の火山活動によってダイナミックな地形が連続していて、これらは長い時間をかけてできたものです。図書館に設けたヒダ状の壁がさまざまな方向に開くことで、建築の中にいろいろな光を映し、風をなびかせ、この地の自然環境を感じる多様な空間をつくっています。
このように長い時間軸と建築が、どのように関わっていけるかを考えています。
——ありがとうございました。
高野洋平(たかの・ようへい)
1979年 愛知県生まれ、2003年 佐藤総合計画、2013年 MARU。architecture 共同主宰
森田祥子(もりた・さちこ)
1982年 茨城県生まれ、2010年 NASCA、2010年 MARU。architecture 設立、13年から共同主宰