名建築

石川県立図書館

めくるめく空間で
本を探し、本を読み、本と出会う

好文学園女子高等学校新校舎棟整備事業 未来のクリエイターが羽ばたく白い学び舎

南側から見た外観。アースカラーのタイルが貼られたコンクリートパネルとガラスのカーテンウォールが雁行して配置されている。
外壁のめくれた形状は本をめくる様子をイメージ。屋上の円形屋根の部分、外周部のキャノピーにR-T工法が使われている

株式会社環境デザイン研究所

会長
仙田 満 氏

伝統文化が育まれた金沢にふさわしい図書館

2022年7月にオープンした「石川県立図書館」は、2017年に石川県によるプロポーザルによって私たちが設計者として選ばれました。敷地は金沢市内の金沢大学工学部の跡地であり、隣には市によって金沢美術工芸大学が建設される計画でした。県からは、伝統的な工芸文化が育まれてきた石川の文化活動、文化交流の場となるようにしたいという要望がありました。

私たちはこの図書館を設計するにあたり、コンセプトを「知の殿堂—知の玉手箱 めぐる・めくる・めくるめく図書館」と掲げました。四角い箱状の外観を玉手箱のように、そして雁行する外壁パネルは本のページに見立て、その外壁パネルのめくれた形状は、ページをめくる様子を表現しています。図書館の周辺が住宅街ということもあり、外構には豊かな緑を設け、外壁パネルには金沢の古いまち並みに見られる落ち着いたアースカラーのタイルを貼っています。

建物は地上4階、地下1階からなり、地下1階には書庫、1、2階の前面には文化交流エリア、1〜4階には開架書架を設置しています。

天井ルーバーのスギ板、床材の能登ヒバ材など内装には県産材を使用し、また石川県をはじめ国内外の伝統文化や自然環境についての資料を展示・解説するスペースも設けられています。

大空間で散策するように本を見つける

この図書館の最大の特徴は、1階から4階までを貫く、まるで劇場のようなすり鉢状の大円形閲覧空間「グレートホール」。フロアが各階で分かれているのではなく、スロープや階段でつながる連続した吹き抜け空間です。1階から見上げると、段状の書架に収まる多くの本が目に飛び込みます。利用者はそれらの書架をつなぐ円形のスロープで3階まで回遊して、本を探しながら散策をすることができます。車椅子使用者はもちろん誰もが利用しやすいようにユニバーサルデザインを徹底しています。そして書架の近くに置かれている椅子に座って、手に取った本をすぐに読むことができます。このグレートホールは、私が以前から研究してきた、循環したりめぐったりすることによって知的好奇心を喚起する「遊環構造の理論」を取り入れて空間を構成しました。これは私たちが2008年に秋田で手がけた「国際教養大学中嶋記念図書館」の進化形でもあるといえます。

グレートホールに配架された7万冊の本は、この図書館で独自に設けた12のテーマに分類、配置されています。書架にはそのテーマを表示したサインを施し、利用者が探している本に行き着きやすいようになっています。

スロープをはじめ館内には、家具デザイナーの川上元美さんがデザインされたものをはじめとするいろいろなタイプの椅子が置かれています。また、大空間の中の閲覧スペースだけではなく、雁行した壁を活かした外の見える半個室のようなスペースも設け、オープンな場所、隠れ家のようにこもれる場所など、利用者がそれぞれお気に入りのスペースを見つけて本と共に過ごせるようにしました。

グレートホール(大閲覧空間) 段状に配置された書架をスロープがつないでいる

グレートホール(大閲覧空間) 段状に配置された書架をスロープがつないでいる

グレートホールの書架には約7万冊の本を所蔵。利用者が探しやすいように分類されている

グレートホールの書架には約7万冊の本を配架。利用者が探しやすいように分類されている

グレートホールを見下ろす、3階の閲覧スペース

グレートホールを見下ろす、3階の閲覧スペース

R-T工法を採用し防水に完璧な配慮を

金沢は冬季の積雪はもちろん、1年を通して雨も多い地域です。本は決して濡らしてはいけないことから、防水には細心の注意を払い、グレートホール上部の屋根は三晃金属工業㈱のステンレスシート防水であるR-T工法を採用しました。

車での来館者が多く、本を手に持ったまま移動することも考えられるため、すぐに庇の下に入れるように外周部のキャノピー上部にも同様にR-T工法を採用しています。防水に対する配慮を完璧にしたいという意図がありました。

吹き抜けのグレートホール上部に架かるブリッジ。柱のない空間を実現した屋根の架構

吹き抜けのグレートホール上部に架かるブリッジ。柱のない空間を実現した屋根の架構

屋外広場からつづく屋内広場。エントランスとイベント空間を兼ねる

屋外広場からつづく屋内広場。エントランスとイベント空間を兼ねる

窓辺の閲覧エリア。雁行する外壁の間から自然光の入る半開放的な空間

窓辺の閲覧席。雁行する外壁の間から自然光の入る半開放的な空間

(写真 下2点:大野 繁)

地域へのコミュニティ施設としての役割

この図書館は、図書館の機能に加えて、文化活動の拠点としての役割も求められました。したがって入り口すぐのホール部分の1階、2階には、講習会や研修会、打ち合わせ、体験学習などに利用できる多種多様な交流空間を配置しました。

南側のエントランスを入ったところに設けた屋内広場は、正面のシンボルになる屋外広場と連続していて一体的に使うことも可能です。ここではイベントが催されたりマルシェが行われたり、さまざまなことに利用されています。また、屋内広場の一角につくった「だんだん広場」は、さまざまなイベントや催しに活用されています。

そして外部は季節を感じられる緑に囲まれるよう、正面の屋外広場をはじめ、1階のこどもエリアに隣接した「おはなしの森」、カフェに隣接した「読書の庭」などを設けていて、開放的に使用できるよう考えました。

来館者数は多い日で1日5,000人を超え、中には1日8時間以上滞在する人もいるという話も聞きます。老若男女、訪れる人がそれぞれ目的のスペースで思い思いに過ごす姿が目に浮かび、とても嬉しく思います。

施工に携わって
三晃金属工業㈱ 北陸営業所

石川県立図書館では、グレートホール上部の屋根と、外周部のキャノピー部分の屋根にR-T工法を採用いただきました。

R-T工法は専用溶接機で連続溶接することで完全一体型の防水面を形成します。ステンレスは柔らかく加工に自由がきくため複雑な形状にも可能で、基材に耐食性の高いステンレスを使用していることから半永久的に使用できるという特長もあります。

ステンレスの溶接には高い技術が求められるため、当社の中でもR-T工法の施工者は当社が認定する資格が必要です。

円形屋根の外側の部分は深谷製作所で成型し、馳も付いた状態で搬入され、真ん中の扇形の部分と半円形の部分は、ある程度成型加工したものを、細かいところは現場に合うように職方さんが手作業で丁寧に納めていきました。そのため作業期間は2ヵ月程度かかりましたが、作業期間中は雨が内部に入らないように、養生に細心の注意を払いながら作業を進め、きれいに仕上がりました。

鉄骨に野地板敷き込み

鉄骨に野地板敷き込み

防湿材敷き込み

防湿材敷き込み

R-T屋根材成型の様子

R-T屋根材成型の様子

扇形部分溶接の様子

扇形部分溶接の様子

扇形部分施工の様子

扇形部分施工の様子

建築概要

所在地 石川県金沢市小立野2-43-1
建主 石川県
敷地面積 32,878.21㎡
建築面積 7,290.82㎡
延床面積 22,720.81㎡
構造規模 鉄骨造+鉄骨鉄筋コンクリート造+鉄筋コンクリート造
一部CFT造
地下1階、地上4階、塔屋1階
屋根仕様 R-T工法/フェライト系フッ素樹脂ステンレス鋼板(NSSC220M)t=0.4mm 1,125㎡
設計 仙田満+環境デザイン研究所
石川県土木部営繕課
施工 清水・豊蔵・表・寺井・双建特定建設工事共同企業体 ほか
竣工 2022年