FOCUS ON ARCHITECTS

街の顔、環境の顔となる
シルエットを意識した建築を考える
藤原徹平さん(フジワラテッペイアーキテクツラボ)

住宅や公共施設の建築、何期にもわたるプロジェクト、さらに現代アートなどの場の構築にも積極的に関わる藤原徹平さん。今回、近作と進行中のプロジェクトについての考えや、建築と地域のかたち、建築と環境についてうかがいました。

藤原徹平さん(フジワラテッペイアーキテクツラボ)

——独立前に在籍した隈研吾事務所ではどんな経験をされたのでしょう。

隈事務所には12年在籍し、世界中で150くらいの仕事をしてきました。中国やヨーロッパの支店の立ち上げにも関わり、世界中のプロジェクトに隈さんと一緒になって提案し、コンペに負け続けた経験や、コンペに勝ってどうつくるかまで関わることができて、とても中身の濃い時代を過ごしました。日本でも海外でも、公共も民間も、再開発の仕事もして、建築という仕事のほとんどすべてを教えてもらい、経験させてもらいました。

——独立後、特に意識していることを教えてください。

地域文化や地域の暮らしを、建築がどう支えられるかを大きなテーマとして意識しています。現在、民間のプレーヤーが地域をつくるような仕事に多く関わっています。きっかけとなった千葉県木更津市の「クルックフィールズ」は、音楽プロデューサーの小林武史さんが、自分の資本で農業や地域を変えていきたいというところから始まりました。けれども実際に民間の個の力で地域を変えるのは大変です。

1つのプロジェクトが、地域の産業や暮らしにどのような影響を与えるかというと、交通計画や産業、雇用、福祉にも関わってきます。それは行政の考えと、地域の人の考えとを一緒に進めていかなくてはいけません。

地域がそれまでに描いてきた計画と、個人が思う計画を融合させるという建築以前の部分がすごく重要です。それをやらないと、地域計画とのコンフリクトが生まれて勝手に進めていると思われてしまう。それは公共建築であろうとなかろうと一緒です。

今後我々は、日本でどのような地域のかたち、都市のかたちを描いていくのかを考えなければいけないと思います。そのときに建築だけではなく、都市計画や土木計画と一緒にどのようなかたちをつくるかという議論が必要だと思います。都市計画も土木計画も20世紀のようにモデルがあって、横展開する時代ではありません。

「クルックフィールズ」では農業を中心に、そこからさまざまなものを派生させていく計画でした。木更津市は理解があって、地区計画として農業特区を認めてくれ、劇場や集合住宅、幼稚園など可能性のある施設も計画に盛り込んでいます。ただ、どれをやるかはまだ分かりません。僕以外の建築家が選ばれても確認申請を出せるように下ごしらえをしています。

——建物の外観と周囲との関係についてはどのように考えていますか。

建物の顔が並んで街ができるから、外観はとても重要です。目立ちすぎる顔が並んでいたり、まったく目立たない無個性の顔が並んでいても困ります。

日本の風景の中で、昔と比べてよくないと思うのは屋根のシルエットです。昔の漁村の写真などを見ると、屋根がきれいですし、街全体のシルエットがきれいです。イスタンブールやローマ、パリも街のシルエットが美しいです。日本ではそういう全体の調和をつくろうと思っている人が減っています。

隈事務所でも街をつくるいろいろな経験をさせてもらいましたし、今の自分の仕事においても、プロジェクトの大小にかかわらず、街としての顔、環境としての顔となるシルエットはすごく大事にしています。

「ROKI Global Innovation Center」

裏参道テラス(2021)

© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi

——中高層の建築でもシルエットを意識していますか。

どんな建築でもシルエットが重要です。日本建築において、どんなに高層化しても忘れてはいけないことだと思います。超高層になると中層、低層をどうつくるかでシルエットを意識します。特に日本は都市の裏に山が見えるので、山のシルエットとの調和は必要だと思います。

京都・東山で進行中のプロジェクトでは、京都市から「東山が応答すべき環境のかたちを京都の人は誰もが理解している」と強く言われました。建築の形だけではなく質の問題を厳しく問われる経験は日本では初めてだったので、京都はいい社会だと思いました。それに対して建築家はより深く感性豊かに考えなくてはいけません。建築がその街にどう合っているか説明する機会をいただくことは、我々にとっても計画を改めて見直すチャンスになります。建築は建築家が一方的に考えるのではなく、建築主が問い、建築家がそれに対して応えることがすごく重要です。

神戸市の某駅前で進行中の図書館のプロジェクトは、広場が重なるという提案でコンペに勝ちました。多正面も大きなテーマとしています。狭い広場の中でみんなが四方八方から建物にアプローチするなら、どこも正面でなければ成り立ちません。そうすると自ずと建物のシルエットも多正面的となり、屋根もきれいでないといけない。

そういう議論をする中で、周囲の高層マンションに住む人にとっても、環境の面でも美しく光も反射しにくく錆にも強い屋根を検討しました。そしてさまざまな素材の中から、ここではステンレスの屋根を選びました。

いろいろ問われることで、建築がどの素材でどうつくられるかがより明確になってきます。

——金属屋根についてどのように考えていますか。

金属屋根の中でも、ステンレスシーム溶接は、槇文彦さんが東京体育館や幕張メッセで使った、私にとってあこがれの素材・工法であり、建築家としていつか使ってみたいものです。

——最後に、建築・デザインについて考えていることを教えてください。

建築のデザインは、建築主が依頼した建築の価値を上げる技です。それを建築家が行うことによって、建築主は宝物を手に入れることができ、価値が高まるわけです。

今、地域は苦しんでいて、東京一極集中に対してどうあらがうか各地でチャレンジしています。建築家としてはそういうグローバルではないプレーヤーに対して、建築のデザインの技術を使いたいと思っています。

——ありがとうございました。

クルックフィールズ(2019)

クルックフィールズ(2019)

© Yurika Kono

藤原徹平(ふじわら・てっぺい)

1975年 横浜生まれ。1998年 横浜国立大学卒業。2001年 横浜国立大学大学院修了。2001-12年 隈研吾建築都市設計事務所勤務。2012年- 株式会社フジワラテッペイアーキテクツラボ設立。主宰。 2012年- 横浜国立大学大学院 Y-GSA准教授。