FOCUS ON ARCHITECTS

場所の性格と光の組み合わせから
外装の素材を選ぶ
永山祐子さん(永山祐子建築設計)

2020年のドバイ万博で日本館のデザインアーキテクトを務め、2025年に開催される大阪・関西万博では2つのパビリオンのデザインを担当する永山祐子さん。今回、国内の近作を中心に、外装デザインの発想や素材へのこだわりなどをうかがいました。

永山祐子さん(永山祐子建築設計)

——歌舞伎町の新しいシンボルとなる「東急歌舞伎町タワー」のテーマや設計について教えてください。

この建物はオフィスの入らないエンターテインメントに特化した超高層ビルであり、私たちは外装デザインを手がけました。事業者からは従来の歌舞伎町のイメージを新しい雰囲気に変えられるような優しいデザインを求められました。

この地はもともと沼地であったこと、広場に噴水があったことから、水をテーマに外装デザインのコンセプトを噴水としました。戦後復興を民間の力で成し遂げた場所でもあり、人々の想いが湧き上がるイメージでもあります。それを表現するために伝統模様の 青海波 せいがいは をモチーフにしました。

低層部は街に開いた商業エリアで、外装には新宿ミラノ座の記憶と周囲の煉瓦色の街並みからイメージした色のアルミキャストを使用しました。グラデーションのあるレースのようなやわらかい表情にして外と内とを区分けしています。また、外装のパターンを3D化して光との相性などあらゆる見え方を検証し、コントロールしました。

高層部の約4,000枚のガラス表面には277パターンの模様をつくり、セラミックプリントを施しています。ガラスの向きや反射をコントロールすることで、日中は表面印刷の白が効いています。夜はライティングをしていなくても、まわりの明るさを吸収して近くから見ると白く幻想的に見えます。

超高層なので、模型だけでは分からないため、3D化した建物をVR(仮想空間)に置いて、都庁や駅からの見え方も検証しました。

東急歌舞伎町タワー(2023)

東急歌舞伎町タワー(2023)

Photo:阿野太一+楠瀬友将

——近作もさまざまなアイデアを実現していますね。「ソラトカゼト 西新井」はどのような工夫をされましたか。

路面店式の商業施設は細長くつくって店舗ごとに壁で区切るのが一般的ですが、ここではその壁の一部をガラスにして、隣の店舗をちょっと見通せるようにすることで、軒先空間に店舗が連なっているような感じにしました。

1階の軒先空間は、店舗同士そして外ともつながる特別な場所と考えました。アーケードのある商店街をイメージして軒を長く出し、軒の上に窓を設けて光と風が入るようになっています。

建物全体はニュートラルなグレーでまとめていますが、軒先だけふわっとやさしい色合いとなる屋根にしたいと考え、発色チタンを使いました。チタンは塗膜の厚さによって反射する色が変わります。横に長い建物だからこそ、チタン屋根が時間や季節によって玉虫色に変化する様子がよく見えると思います。光が当たると2階床裏に反射して玉虫色に染まります。焼き付け塗装だとそういう表情が出ないですね。設計を考える時には、場所の性質に合った光の組み合わせを考えることはもちろんですが、素材にもこだわっています。

——「JINS PARK前橋」は独特な形と色の建物です。

前橋はアイウエアブランド「JINS」創業の地でもあるので地域共生型の店舗を提案しました。ベーカリーカフェを併設し、2階にはお子様連れにも安心な大きなテラスをつくりました。

外観は、建物から見える赤城山の色合いを1枚1枚手作業で硫化処理した銅板の色斑で表現しています。幅も3種をランダムに張って、プレゼント包装のように角もきれいに折り曲げています。屋根と壁の全体が見えるとチョコレートケーキのようで、昼間はキラキラと甘く光った感じです。

夜はこのあたりが静かなので、雨樋と照明をセットにしてラインの部分だけ光るようにしています。原寸大のモックアップをつくり、昼間の光、夜の光がどのような現象を生むかも検証しました。明るくきらびやかなネオンではなく、地域になじむ落ち着いたライティングをイメージしました。

ソラトカゼト 西新井(2022)

ソラトカゼト 西新井(2022)

TOKYO TORCH Torch Tower(2027年度完成予定)

TJINS PARK前橋(2021)

Photo:阿野太一+楠瀬友将

——2027年度完成予定の「TOKYO TORCH Torch Tower」は超高層ビルの低層部の外装デザインを担当されます。どのようなことを意識しましたか。

低層部にアクティブな都市空間をつくりたいと考え、広場からビルにつながり、さらに低層部に巻き付くような全長約2kmの「空中散歩道」を提案しました。従来、高層ビルの店舗は中から縦動線で上がっていき、外からは中の店舗の様子が分かりません。それを表側に道をつくることで路面店のように出てくるようにしたいと考えました。

設計を進めるうちに、行政協議の中で高さ60mの「空中散歩道」が公共広場として認められ、容積不算入になりました。これは都市計画的にも画期的なことです。

私たちは外装デザインアドバイザーの立場ですが、道をつくることによって店舗の構成も変わってくるので、中のプランにまで関わっていけたらと思っています。

最近はコンセプトづくりから参加することが増えています。デザインが素晴らしい建物はたくさんありますが、運営する中で有効に使われてこそ建物が活きていくと考えています。建築をよくするためには、最初のコンセプトをどれだけしっかりさせて、だからこそこの建築なんだ、このデザインしかありえない、という答えを出せるかが大事だと思います。

——ありがとうございました。

TOKYO TORCH Torch Tower(2027年度完成予定)

TOKYO TORCH Torch Tower
(2027年度完成予定)

コアアーキテクト/株式会社三菱地所設計
デザインアドバイザー/永山祐子建築設計(低層部)、藤本壮介建築設計事務所(頂部)、Fd Landscape(広場)

永山祐子(ながやま・ゆうこ)

1975年 東京都生まれ。1998年 昭和女子大学生活科学部生活環境学科 卒業。1998年 青木淳建築計画事務所 入社。2002年 青木淳建築計画事務所 退社。2002年 永山祐子建築設計 設立。2020年 武蔵野美術大学客員教授。